第十九話 世間話のような、いつか知るべき話のような
「皇の記憶?」
「ああ。入江の世界視が人体に作用しないのは知っているが、まぁ一応」
「そうだね、流石に俺が分かることはないと思うんだけど……」
記憶がない、だから探ってほしいという話だったが、俺に聞くのはちょっと人選ミスじゃないだろうか。何か昔から持っているものなどがあるならばともかく、純粋に記憶を探ってほしい、という依頼だったので。
「ええと、一応聞きたいんだけど……皇の記憶がないのって、ウォルクさんに拾われるよりも前?」
「ああ」
「……逆に聞きたいんだけど、一番古い記憶って?」
「一番古い記憶……」
はて、と首を捻る皇。順当に考えるならばウォルクさんと会ったとき、ということになるけれど。どうやらそう簡単な話ではないらしく、うんうんと唸りながら皇はぼやく。
「最初……は、多分戦場の記憶……?やけにモノクロだったことは覚えているんだが」
「ふうん……?それはウォルクさんと会う前なんだ?」
「多分……?昔は人の姿を認識出来てないから、あれが師匠だったのかも分からない」
「ああそういう」
皇が指をひらひらと動かせばスミレくんの視線が動く。今でもあんまり人間に興味がなさそうだもんな、人間の判別がつかなくても何らおかしくはないと思う。レンも真似するように俺の指をふにふにとつついてきたから、ちょっとだけ動かせば歓声が上がった。
「皇って北で戦って生きて来たの?」
「ああ。師匠曰く、特に隠れたりはしていなかった、と」
「じゃあ昔から強かったんだ……」
「強かった……というよりは、子供の姿に油断する相手が多かった、というべきか」
「それでもじゃない?」
「まぁ少なくとも、非力な子供だと油断する相手は実力としてもたかが知れていたな」
子供だからと言って利用されていないとは限らない、そう言外に零して皇は軽く首を傾ける。いくら皇でも子供の身ではきっと苦難の方が多かっただろう。それでも本人が何でもないことのように過去を語るのは、本人の記憶が曖昧だからだろうか。
「もし……俺がユウヒのマスターと出会っていたとするなら、それは師匠と会う前しか有り得ないと思うんだが」
「皇に記憶がないんだもんね……」
「ああ」
封じられた記憶を目覚めさせる、ということは皇にとっては既知の相手でなければならない。既知の相手でありながら知らない相手として認知される、……皇の記憶が幼少期以外連続性を保っているならば確かにそうなる、が。
「皇が認識してないだけで……どこかで会った可能性がある?」
「それは…………まぁ。実際声は、どこかで聞いたような気がした」
声……か。耳が良い筈の皇が聞いても思い出せないのは、逆にどうしてだろうな。
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