第十二話 呼び声への応答・漆
「……ん、志葉さん!」
「っ」
肉体と精神が癒着する、手も足も動く、気配察知も聴覚も異常はない、僅かに歪んでいる視界を元に戻すように何度か瞬きを繰り返した。
「アラン、さん」
「大丈夫ですか志葉さん。意識は」
「問題……ない、です。ユウヒは?」
「俺は無事ですけど……」
二人の反応から察するに俺だけがあの空間に飛ばされた、あるいは影響を受けた……のか?どうして俺が、と思わない訳ではないが、そもそも起動した瞬間にマークに触れていたのが俺だから……という可能性が高いだろうな。
「アランさん」
「はい」
「ユウヒのマスターに……会いました」
「えっ」
「マスターに!?」
「現実かどうか曖昧な空間ではありましたが、会話は出来たので恐らくは……」
会話が成立していたので完全な幻覚ではないだろう、とはいえ、実体はないと思われるので、高精度な式神、という可能性もある。
「会話意思があった?それは……」
「皇さん、マスターは何て……?」
「ええと……このページの破棄と、ユウヒに…………守れなくてごめん、と」
「っ……そう思うなら、どうして……!」
ユウヒの言葉に何も返せず、俺もアランさんも口を噤む。相手にとっても不本意だった……と言うのは簡単だが、その事実が慰めになる訳ではないだろう。寧ろ、望まないまま手放すことになったという事実に責任を感じる可能性すらあった。
「……とにかく一度戻りましょう、立てますか?」
「はい」
この場で情報を精査することは出来ない、と判断したのかアランさんが会話を切り上げて俺達を促す。実際この場に長居するべきではないだろう、医療部門であるからといって何もないとは限らないので。
「このページについては……」
「そうですね……本人がいないのに破るのはちょっと……」
それもそうか。とはいえ気になることはあったんだろう、アランさんは日誌を持ち上げて、そのまま懐へとしまう。
「藍沢先生に確認をとりましょう。何が起こったのかを話すかは、志葉さんにお任せします」
「……秘匿してもいい、と?」
「それが最善だと判断するのなら」
あいつは記憶の消去には関わっていないといっていた、藍沢先生に無理をしてほしくなくてこのページを預けたとも。……このページを残す藍沢先生の負担が減る、というのは……一体どういう事だったんだろうか。
藍沢先生の部屋を出る直前にもう一度日誌があった机へと視線を投げる。誰もいない机と、不自然に空いた空間を見て拳を握りしめる。
「……」
手のひらは、いつの間にか冷め切っていた。
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