第十一話 呼び声への応答・陸
この痛みはなんだ、この苦しみはなんだ。どうして俺は、こんなにも焦っている。
呼吸が浅い、音が遠い、視界が揺らいでいる。精神を乱すな、情報を取り逃すな、落ち着け、慌てるな、とにかくひとつでもいいから相手を理解しろ。ひとつ息を吐いて言葉を紡ぐ。
「……お前は、許されたかったのか?」
「……いいや。許されるいわれなんてないんだ」
自嘲にも似た声。許されたい訳じゃないのに許しについての見解を問う、世界の敵だと言っていてもその声に憎悪はない。罪人……そうだ、本人の自認はそれであり、だからこそアランさんと同じようにどこか投げやりな、自分のことを雑に扱おうとしている。
「許されるつもりがなくとも、それは罪なのか?」
「世界にとっては罪で、俺にとっては……」
言葉が切れたな。やはり本人は罪だと認識していないのか。それでも罪だというしかない状況下にあったのは……何らかの圧力があったんだろうか。逆の事例は見たことがあるが、本人に罪だという認識がないのは初めて見たかもしれない。
「……本当に、お前にとってその罪が罪ではない、なら。……手放す必要も、離れる必要もないんじゃないのか」
「…………そうだったら、どんなに良かったか」
何かがあったな。本人達の意思とは関係ない何かが。ユウヒにとっての不可抗力であったことは本人の発言からも確認出来ていたが、まさかマスター側にとっても不慮の事故だったとは。……正確には少し違うのかもしれないが、少なくともユウヒを手放すことを背後にいる人物も望んではいなかったらしい。
「何故記憶を?」
「それこそ不可抗力だ。藍沢先生もユウヒも、俺は何もしていない」
藍沢先生も、と言ったな。記憶の消失はこいつのせいではない……別の勢力、あるいは別の影響があると見て良さそうだが……逆に言えば今この場で得た情報はこのまま持ち帰ることが出来る可能性が高い、ということか?
「一つ聞きたい。……ユウヒと再会する気は?」
「無理だろうな」
即答だったな。だろう、ということは本人の意思とは関係なさそうなんだが……今一つこいつの言わんとすることを汲み取れない。そもそも持ってる情報量が違いすぎる。
「――……少し、話し過ぎたな」
「待て、まだ話は終わっていない」
「残念だが時間切れだ。……出来れば、このページは破棄してくれると助かる。藍沢先生に無理をしてほしくなくて渡したものだが、結果として負担を強いてしまった」
「……それは」
「それと、……ユウヒにも謝っておいてくれ。守れなくて、ごめん、と」
「待――――!」
振り返ったその先、思わず伸ばした手を、あいつは。
――――微笑むだけで、取ってはくれなかった。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
面白かったらブクマや高評価お願いします。喜びます。




