第六話 呼び声への応答・壱
敵意はそれほど感じないが、魔術部門ほどの許容も感じない。遠巻きにされている……というのが現状としては正しいか。ちらちらと視線は感じるもののわざわざ近寄ってくる職員もいなければ作業の手を止める気配もない。
「……」
アランさんは責任者であろう職員と会話している。何故だろう、アランさんの方が警戒しているように見えるのは。相手の職員が比較的穏やかに会話しているように見えるからだろうか、それともアランさんの声音が若干硬いからだろうか。他の職員達が遠巻きにしている中、殊更にフレンドリーに振舞おうとしているのは特別奇異に映る。
『ユウヒ』
『どうしました?』
声にすることはせず、テレパシーに近い形でユウヒに話しかける。あまりよくはないと思うがユウヒも同伴しているのは万が一のためで、もしこのまま門前払いをくらうようならユウヒに潜入してもらうつもりだった。
『どう思う』
『どう、といわれても……相手に悪意はありませんが。まぁ分かりますよ言いたいことは、悪意がないことと友好的な事って別ですし』
ユウヒも違和感は覚えているという事か。何だろうなこの居心地の悪さは、どういう感情で相手はアランさんに笑顔で接しているんだろうか。ちらりとユウヒの方に視線を向ければ、言葉こそフラットなものだったが、表情は如実に不快感を訴えていた。
「志葉さん」
「はい」
アランさんが振り返り俺の名前を呼ぶ。そのまま移動するように促されたので大人しく従った。
「ああ、ちょっと」
「?」
呼び止められた、と判断して一旦立ち止まる。アランさんが止めるように振り返り軽く手を伸ばしたのは見えたが、それよりも先に相手の職員が口を開いた。
「怪我をしたなら言ってくださいね。我々は医療部門の職員なので」
「……」
言っていることにおかしなところはない、それなのにどうしてだろう、ここで頷いてはいけない、と強く感じさせる何かが俺の言葉を留めている。じわりと胸辺りが熱くなって、少しだけ足を引いた。
「行きましょう志葉さん。大丈夫、気にする必要はありませんよ」
「ア、ランさん」
「はい。大丈夫ですよ」
いつも通りの、決して揺らいでいない声。掴まれた手に震えもない、ただ静かに先を促すその行動に声が戻ってくる。
「……はい。すみません、急いでいますので」
会釈だけしてアランさんの隣へ足を動かす。何を感じたのかは分からない、ただの杞憂かもしれないがどうしてだろう、あの職員の誘いだけは、何が何でも乗ってはいけない気がした。
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