第四十一話 時間は前後し、防衛・後編
「嘘だな」
「ほう?断言するということは上層部への通信、あるいは上層部そのものに干渉する手段があるのか」
私の言葉に相手は苦々しい表情を浮かべる。出来る限り情報は落としたくないのだろう、とはいえこの状況下では何を言っても情報に成り得る以上、相手にとっては沈黙以外の選択肢がないのだが。
「……少々口が滑り過ぎたな。叱責を受ける前に終わらせるか」
「この状況でも任務を遂行する意思はあるのか。勤勉だな」
「……他人事だからってのうのうと……!」
「実際他人事だからな。お前の任務が成功しようが失敗しようが、私にとってはどうでもいい……おっと、こちらも喋り過ぎたか?」
いやまぁ、実際目的がこの皮の破壊である以上、成功しようがしまいが俺にとっては微塵も関係はないのだが。寧ろこうやって対峙していることこそが成功とすら言える。流石にそこまで発言してしまうといよいよ失言になりかねないので口を噤んだ。
相手は私の真意を測るようにゆっくりと目を細め、思考を回す。データを提出した、という言葉を嘘だと断じるには少々疑いが強まったのだろうか。仮に上層部が掌握されていた場合非常に困ったことになるんだが、アランが何も言っていないということは恐らく大丈夫なんだろう。
「……仮に、そのクローゼットの中身を破壊することをそちらが厭わないのであればここで敵対する意味はないだろう。そのまま大人しくしているのならこちらとしても危害を加えるつもりはない」
「そうか。話だけならいい提案にも思えるが……駄目だな、こちらにとってのメリットがない」
「ない?つまり……ここで戦闘になっても問題ない、と?」
「そうだが?」
「舐めた真似を」
「舐めているのはそちらだろう」
交渉決裂、ノータイムで飛んできた拳を杖で弾くことで戦闘を開始する。あまり騒ぎにはしたくないし、大立ち回りをする場所もない。最小限の動きを心掛けつつ、相手の動きを観察する。
「……」
腕力は高いが速さはそこまででもない。動きにぎこちなさもあるな、無理矢理大雅を模倣して無理でもしているんだろうか。一番の強みであろう反射速度に陰りがある以上敵にすらならないな。目眩を起こす前に地面へと叩きつけて杖を当てる。
「弱いな」
「っくそ……」
正直このまま捕獲してもいいが、今回の目的とはずれるのでギリギリ抜け出せる程度の力に留めておく。この状況下で撤退を指示しないのなら諦めて捕獲するが、どう出るか。
「……ん?」
幽かな音がしたので一歩下がる。ふわりと、風のように舞い降りた侵入者は俺と目が合ってにこりと笑う。……隠す気はない、か。
「撤退指示」
「……了解」
まるで砂になるように消えていった二人を見送り、私はゆっくりと壁に身体を預けた。
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