第三十八話 譲れない、願い・後編
「舐めたような口をっ!」
「はは、激情に呑まれて強みを捨てたか!」
「誰が!」
ただ速く走る、それは一見すると強みの様でいてその実ただの愚策だ。そんなの知る訳がないと言われればそれまでだけど、俺の姿を使うなら一つ確実に気にしなきゃいけないことがある。
ステップを踏むようにただ一つしかない道を踏みしめる。逃げ場なんてない、一瞬でも遅れれば、判断を間違えれば俺だって爆発を受けるようなギリギリのラインを辿る。どんなに俺をトレースしたって逃げられない、俺と選択を違えたって逃げようがない。いくつもの爆発を受けて相手が一歩、思わずと言った風に退いた。
「躊躇ったな?」
「なっ……!」
踏み込むことを躊躇うな。攻撃を受けるならそれより早く、爆発する足場なんて走り抜けてしまえ。いつだって俺に撤退する意味はない、どこまでも駆け抜けることでしか、俺に勝利はない!
スレスレまで接近して、武器を一閃。嫌がるようによろけた足は爆弾を踏んで更に追い打ちをかけて来る。同じスペックの相手に体勢不利で勝てると思うなよ、勢いよく引き倒して首筋に刃を突きつける。
「くっ……!」
「情報を吐け。話はそれからだ」
「っ誰が吐くかよ!」
「お前に拒否権なんてない」
手早く青藍さんに連絡を飛ばしてからじっと相手を観察する。悪態はついてるが逃げる気配がない、自害するかと警戒していたんだけど、出来ない理由があるのか?勿論同じ筋力の相手を取り押さえるのは難しいので、上からのしかかる形で動きを制限する。
「入江!」
「あ、青藍さ――――」
言葉が終わるよりも前に大きく飛び退く。……連絡はちゃんと成されたと思ったんだけどな、通信すらジャックされたのか?拘束から解放された俺の偽者は一度舌打ちしてから立ち上がる。
「はー最悪……ていうか何、終わったの?」
「まさか。手痛い反撃をくらったよ。尻尾切りをしなかっただけ温情だと思ってもらいたいね」
「成程、もうちょっとだと思ったのになぁ……やっぱこの身体を使うのは失敗だよ、使いづらいし」
「まぁ改善の余地はあるな。もっといい素体もありそうだ」
「……」
防衛自体は成功、と見て良いのかな。とはいえ今目の前で繰り広げられているやりとりから察するに安心は出来ないし、なによりここで見逃す意味もない。二人は無理でもせめて一人くらい倒せるか?
「逃がさんぞ」
「ああ悪いね。君達に構ってる暇はないんだ」
「ここから打開の策がある、と?」
「そうじゃなきゃこんな余裕をもって対峙してないよ」
動いた方がいい、と判断して一気に距離を詰める。確実に届くと思われた手は空を切って、残されたのは双剣だけだった。
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