第三十六話 譲れない、願い・前編
俺と同じ動き、俺と同じ判断をするけど俺とは違う武器を持って俺達は対峙する。流石に華蓮が作った斧じゃなきゃ俺は振るえないもんな。煽るように口角を上げればあからさまに顔を顰められる。
「あーやだやだ、これだから職員は……」
「煽られることに耐性ないんだ?さぞ温い戦闘しかしてこなかったんだろうね」
「はー腹立つ!!!」
怒りに任せて剣を叩きつけられる。相手が使うのは双剣、それなら皇の姿にでもなっておけばいいのにな、と思いながら刃を当てて軌道を逸らす。弱くはない、俺の速さに追いつけるだけの慣れもありそう。だがそもそもスピード型じゃないのか、火力不足に嫌そうな表情を見せる瞬間がある。
「お前の目的は、何?」
「知ってて聞いてる?」
「まぁそうだね。知ってる上で、節操ないなと思いながら聞いてる」
ミライさんを狙う、ソウさんを狙う、宇月だって多分狙われている。三人に共通点がある訳でもなく、ただ”希少だから”という理由で狙ってすらいそうな相手だ。誰でも良いのか、それとも全員必要なのかは分からないけど、傍から見れば無計画な集団だろう。
「君達に言う意味はないんだけど、一応教えてあげるよ。ずっと宝の持ち腐れ状態にしてるのもどうかと思ってるしね」
「ふうん……それはどう、も!」
顔の向きはそのまま、ちらりと周囲に浮いている水の塊に視線を向ける。トラップは一時的に停止、情報収集に移る。一応音声も届いている筈なので、必要なら華蓮の方で誰か呼んでくれるだろう。
「人類は存在として不完全である。知識故に無知を失い、罪故に無垢を失った」
「……」
「今箱庭には誰もいない。”完全な人類”はただ一人によって奪われてしまった。だが、まだ還る道があるとしたら?」
「…………」
「原初の血を使い、変質の血を使い、全人類を”救済”する。そのためには”彼等”が必要だ」
「………………くだらない」
「は?」
声が数トーン低くなる。だが俺の方も止まらない、心底その計画を慈悲だと、最善だと思っていそうなその表情にムカついた。
「退化を選択するなんて人間は随分と臆病になったものだね」
「逆だ、退化した人類を元の進化状態まで戻すんだよ」
「無知になることを進化というのなら、俺は喜んで退化するよ。無垢であることが美徳なら、きっと俺は進んで泥を被ると思う」
どれだけの間、何も知らなくて苦しんだんだろう。無知に苦しめられることはあっても救われることなんてなかった、ずっと真実を知りたくて、もう一度華蓮に会いたくて、どれだけ俺が血の滲むような思いをしてきたか!
「愚者だね、君は」
「愚者で上等。そんなにゆりかごの中に帰りたいなら、いっそ幼児化の方法でも探った方が有意義なんじゃない?」
元居た場所に帰りたい、その願いを無駄だと断じる気はないが、俺達を巻き込むなら話は別だ。誰かの犠牲を許容してのうのうと生きる趣味はない、だから。
「決めた、お前はここで潰す」
「奇遇だね、僕も同じ気持ちだ」
全力で、その選択に否を突きつけようか。
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