第九話 掃除人・後編
依頼人はいなくなったがだからといって掃除を放棄する理由にはならなかったらしい。流石にただ突っ立っているのは違うと判断して掃除用具を借りて邪魔にならない場所の清掃を行う。もももせっせと隙間のよごれを掻き出しているな。てっきりこういう作業はすぐに飽きて転がり始めると思っていたんだが。
「……うん?これは……」
「どうしたんですか」
「もい?」
ジェイさんの不思議そうな声につられて俺とももは一旦作業の手を止めて様子を確認しに向かう。一人でテキパキと一室を掃除していたはずのジェイさんは、何やら手元に数枚の紙を持っていた。
「これは……証拠になるんじゃないのか?」
「証拠」
「もんもい」
一言断ってから中身を読めば、成程指示書と思われる文言が書き連ねてある。……宇月が藍沢先生に引き取られたことや、ヒュリスティックに所属したことも把握はしていたのか。観察指示は出ていたようだが、藍沢先生に保護されていたのが思いのほか相手にとっては痛手だったようだな。
「……これは……宇月のカルテ、か?」
「どうやら人体実験に近しいことを強要していたみたいだな」
「ああ。……本当に、藍沢先生が気付いてくれてよかった」
「もーい」
どうやって藍沢先生が宇月と知り合ったのかは分からない。ただ、両親の姿をした知らない存在と過ごす日々はかなり負担だっただろうという想像だけはつく。正体を知っていたのだから恐らくは死に目にあっていた可能性もあって、……どんな感情で、日々を過ごしていたのか。
「こっちは写真で、これは……血のついたナイフ?乾ききってるんだが、いつのものだ」
「俺に言われても……あ、でもこれは……」
「ももも?」
「ああ。恐らく本来の白糸夫妻が持っていたもの……」
どうしてこんなところにあるのかはさっぱり分からないが、ジェイさんが奥まった場所から取り出してきたところを見るに”気付かれていなかった”遺品だろう。遺されたものがこの一振りのナイフだったことを喜ぶべきか、そもそも渡していいものか。取り敢えず処遇はどうするにせよ捨てるには忍びないので、血痕を拭ってから丁寧に仕舞い込んだ。
「必要ならここで得た証拠は全部渡すんだが、どうする?」
「そうだな……ああ、一応全て確認させてもらえるか」
「分かった。重要参考書として丁寧に扱おう」
「ももーい」
何やら言い回しが独特だな……?別に仕事をこなしてくれるんならどうでもいいが、実は結構気さくな人柄なのかもしれない。てきぱきと散乱していたゴミを纏め、汚れを掃除し、家具を元の場所に戻しながらジェイさんはさくさくと証拠を集めていく。
「あの偽者たちはあまり掃除が得意ではないらしいな。フライパンの中がゴミ箱になってる」
「食事を取ってないのか……?少なくとも料理はしていない、ということになるんだが」
「なんというか……使われてるのは洗濯機だけ、みたいだな。実はあの肉体ごと精巧なスーツだったのか?」
スーツ……か。あの顔ごと全てが脱げるとか想像するのも悍ましいんだが。流石にそんなことにはならない……よな?
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