第八話 掃除人・中編
「どうも、本日の清掃業務を担当させていただきます小林です」
「ああどうも。小林さんが担当してくれるなんて僥倖ですね」
小林、と名乗っただけで白糸夫妻の態度が軟化したのが分かるな。そんなに有名なのかこの人。俺を端的に新人とだけ告げたジェイさんはバケツを取り出して水場へと歩いて行く。
「前回までよりもスパンが短いですが、本日はいつも通りで?」
「ええ。近頃は物騒なので怪我人が多くて……」
「なるほど、それは大変だ」
蛇口をひねる。さらさらと幽かな音を立てて流れ落ちる水がバケツに受け止められる。ゆらりと音もなく水面が揺れて、不自然なくらいきらきらと光を反射した。
「……成程」
どうやらあの一瞬で見抜いたらしい。どのタイミングで動こうか、と俺が思考を回している間にジェイさんはモップを手に取る。
「では、掃除を始めましょうか」
水が、踊る。ジェイさんを隠すように、まるで何も見せないように。
「は――――」
「っ」
ソウが手を出さないというのならやることは一つ。一気に地面を蹴って夫婦に接近、反応される前に意識を刈り取る。外装だった場合を考慮して少々強めに打ったが……生身ではあるのか。反応速度も鑑みるに恐らく戦闘員ではないな。
「流石。掃除の手間がなくて助かる」
「やっぱり強いねあやや」
「もい」
「見極めが終わったならさっさと帰ってくれ……」
ソウが実体化したかと思うと事前に避難させていたももも実体化する。連れて帰るの邪魔でしょ?と言いながらソウは白糸夫妻を引っ張ったので、諦めてバケツの近くへと連れて行った。
「人間が出て来た……」
「ふふ、はじめまして。ソウです。こっちはももくん」
「もーもい」
「ジェイだ。清掃員をやっている」
ソウを見てもももを見ても動揺しないとかかなりの逸材だな。なんなら掃除する気満々で追加のバケツを用意し始めてるぞこの人。掃除は結局するのか。
「よいしょっと」
「連れて行けるのか。便利だな」
「えへへ」
「あんまり褒めないでくれ。調子に乗る」
「もーい」
もう既にジェイさんを無害認定してうろちょろと周囲を歩き回り始めてるんだぞ。ももも一緒に歩き回るんじゃない……!ジェイさんは汚れを迅速に拭き取りながら元気だなぁみたいな表情で二人と会話してるが。
「ソウ、本当に長時間滞在すると心配されるから」
「そうだね。もうちょっと色々見て回りたい気はするけど……うん、大雅を困らせたい訳じゃないし、もう帰ろうかな」
「そうしてくれ」
よかった大雅が重戦闘区域にいて。俺だけだったら多分駄々を捏ねて中々帰らない可能性があったからな。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
面白かったらブクマや高評価お願いします。喜びます。




