第七話 掃除人・前編
「”ジェイ”です。はじめましてあやめさん」
「……あやめだ。よろしく」
つなぎを着た清掃員。事前に話を聞いていても疑いたくなるような穏やかさに思わず目を細めた。確かに戦闘能力はないとは聞いていたが、多少自衛は出来るものだと。受け身を取る気すらない立ち方と警戒する様子すら見えない気の配り方から察するに戦闘は完全なる素人か。
シン経由でアランから白糸診療所の制圧、もとい内部にいる”白糸夫妻”の姿を取っている何者かの捕獲を指示されている。どうやらその擬態が非常に高度なものらしく見抜ける人材で動けるのがソウしかいないと。……正直ソウを動ける人材としてカウントするのは正気の沙汰じゃないが、本人が是非にと言って来たらしいのでもうどうにもならない。一応こちらに来るのは最低限だと聞いているし、そのために移動手段である一定量の水を不自然なく確保出来る清掃業者の人間と組んでいる訳だが……心配であることに違いはない。
「ユーカーから……いや、ええと上司からの依頼で来たのは良いんだが、俺も正直詳しいことは分かっていない。ただいつものように掃除をすればいい、と」
「……雑過ぎないか?」
よくそれで良いと思ったな。必要なのは掃除じゃなくて水だし、水を入れてすぐに洗剤とか入れられたら大惨事になるんだが。いくらソウの詳細を喋れないからと言ってももう少し指示は出せるだろ。
「俺はただの清掃業者だからな」
「それはそうなんだが……」
大丈夫なんだろうか。アランも詳細を知らないせいで安全を確保できないのが痛い。ただシン曰く信頼出来るらしいから……シンを信頼するしかない、というのが非常にネックなんだが。
ジェイさんの車で白糸診療所まで移動する。一応二人揃って清掃業者として潜入するらしいが……事前情報では五、六人で普段は作業していると聞いている。大丈夫なんだろうか、二人だけで。
「ジェイさんは……清掃業者としては有名なんですか」
「一応……まぁ、上司が少々有名でな。表向きの仕事ではそれなりに知られている筈だし、裏でも存在はある程度認知されている気がする。一般人だから勘弁してほしいんだが」
一般人……か?自衛能力はないらしいが裏の仕事を任せられるだけの実力はあるということなんだよな……?清掃業者だから基本的には戦わないとかいうそういう話か?
「あ、因みにジェイというのは裏で使っている名前で、表では小林と名乗っているので今回はそちらを」
「わ、分かった……」
何だか、心配になるような緩さだな……。
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