第六十五話 この身は正常か・前編
「結局俺になんのかよ」
「すみません、藍沢先生の方は用件が長引いているようで……」
「まぁ偽造は終わってるから構わねぇけど」
アランさんの言葉に軽い調子で言葉を返すレンリさん。レンリさんの視線はミライさんと……アルカちゃんにもちゃんと向いているんだよな。本人は何も言ってないけど、多分アルカちゃんのことが見えている。
「お手数をおかけします。ええと……」
「レンリでいい。取り敢えず最初にミライ職員候補の方から検診したいんだが、そのちっこいのは大人しく出来るか?」
「(こてん)」
やっぱり見えてるんだレンリさん。ミライさんも重戦闘区域に来てからは大体の人が見えてるので特に指摘はしなかった。
アルカちゃんは不思議そうに首を傾げるだけだな。言葉の意味は分かってると思うんだけど、どうして自分が離れなきゃならないのかは分かってなさそう。地面に降りる気はないようなので、代わりに声を上げた。
「僕が抱えておきましょうか?」
「あ、じゃあお願いします」
ミライさんから手渡されたアルカちゃんを膝に乗せる。少しの間上を向いて僕と目を合わせたアルカちゃんは、やがてにぱーと笑って満足そうに身体を揺らし始めた。
「そうかそうかご機嫌か。じゃあその隙に済ませるぞ」
「は、はい」
レンリさんは手早くミライさんの検診を進めていく。殆どは人間とほぼ変わらない内容だけど、一応擬態しているということを考慮してか、人間態に負担はないか、解除条件等はあるか、など細かい部分を聞いていた。
「龍種というのは……存外、人である負荷がないものなんですね」
「個人差はあると思いますけど……そうですね、別に特別な能力が必要な訳でもないですし、寧ろ今生きてる龍の殆どは本来の姿に戻る方が負担が大きいと思います」
「本末転倒じゃねえか……?」
「そうなんですけど……どうしても本来の姿は維持するリソースが大きすぎて」
「成程省エネ形態」
「はい」
龍って大変だな。部分的に戻すのも割合が大きいほど負担は大きくなると言っていたし、重戦闘区域にいる龍はかなり異質ということになる。
「じゃあうっかりで本来の姿に戻ることはない、と」
「そうですね。あるとしたら……強制的に魔力を溜められる、とかしない限りは」
「それならまぁ安心だな。戻りそうとか予兆は分かるのか?」
「多分……?流石に戻ったことがないのでなんとも……」
じゃあ生まれた時から人間の姿なんだ。もうそれは殆ど人間と同じ……実際仕草とか考え方に異質さは見られなかったからな、それでも龍種というだけで狙われるのは中々面倒だと思う。
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