第五十六話 今後のあと始末・前編
「……すみません逃げられました」
「いえ……こちらこそすみません、油断しました」
完全に退路は断たれていた、にも関わらず消えたということは何らかのギミックはあったとみるべきだろう。レンリさんに手を差し出しているアランさんに変わったところはない、念の為ひよりの方に視線を向けたが、何も指摘していないので本物、と見てよさそうだった。てちてちと足元に寄って来たスミレを抱え上げる。
「レンリさん、教育に悪いですよ」
「あー…………まぁ、それはそうだな。すまん」
レンリさんがあの場で不審者を巻き込もうとした理由は分かる。決して自棄になった訳ではなく、至極合理的な判断として行動を実行に移したことも。だが死なないと分かっていてもミライさんのトラウマになる可能性は充分にあった。それをレンリさんも理解してるのか、気まずそうにアランさんへ謝罪の言葉を返す。
「一つ聞きたいんですが、アランさんは今までどこに……?」
「少々足止めを食らいまして。重戦闘区域内での騒動、ということもあり取り急ぎ青藍に話を通していたんですが……そうですね、先にこちらへ戻ってくるべきでした」
重戦闘区域内で足止め、か。青藍さんの領域内にも関わらずアランさんを足止め出来る、というのは明らかに異常だな。ひよりも真剣な表情で首をひねる。
「さっきの不審者、ミライさんの身柄を求めてました。もしかして……ミライさんが龍種であることがバレてた?」
「うぇ!?」
「その可能性は高いでしょうね。実際、ちゃんと調べれば簡単に分かりますし」
「わ、分かっちゃうんだ……」
「分かりますね。アカデミーで実績が横取りされていたからこそ穏便に過ごせていた、と言うべきか……」
「わざわざ重戦闘区域で拉致を敢行しようとした理由が分かりません」
「そこなんですよね……」
最初から情報があるのならアカデミーで拉致を実行しようとしてもおかしくはない。そうでなくとも、魔術部門にいた時は人も多かった。だが不審者が行動を開始したのは重戦闘区域に来てからで、アランさんを足止めしたとはいえ俺とひよりは残っている状況である。どこかちぐはぐさを否定しきれない。
「まぁ実際テオはともかく、皇の存在は知られててもおかしくはないはずなんだよな……」
「テオ?」
「ああまだ言ってねぇの?」
「はい。ご挨拶が遅れました、僕テオと言います。天宮ひよりは偽名です」
「テオ……ってもしかして、テオ・ドールさん……!?」
「はいそうです」
知っていたようだな。……つくづくミライさんの知識が不思議というか、ミライさんに情報を流していたであろう夜岸さんのことが気になるな。
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