第三十八話 戦わずとも、弱者ではない・後編
持っていた剣を弾き、首筋に切っ先を当てることで勝敗を決める。シリウスさんが降参を告げ、外羽さんが武器を降ろしたことを確認してから合流の為に訓練室へと足を踏み入れた。
「どーこが鈍ったのさ。普通に強いじゃん華蓮」
「いや鈍ってはいる。踏み込みが浅い時が何度かあったし」
「それはあったけど」
あれだけの動きを見せながら本調子でないというのは末恐ろしいな。正直相手の視線から次の動きを予測できない、というのはかなりやりづらいだろうと想像がつく。それでいてこちらの動きが読まれているとしたら、常に後出しじゃんけんをされているようなものなので。
「凄いね華蓮!強かった!」
「そう?綾華に比べるとまだまだだと思うけど……」
「俺より強いよ!」
「なーん」
あの動きを見せておいて謙遜するのか。興奮して幾つもの誉め言葉を吐き出し続ける入江を眺めていたら、隣に立っていたテオが首を傾げながら呟く。
「外羽さんって……自己評価が低いんですかね?」
「可能性はあるな。あるいは……比較対象が悪かったか」
天使の最低限の実力があれ、というのならば自分が強いという自覚も生まれないだろうし、そうでなくとも元の実力が飛び抜けて高いのであれば弱体化した状態では強いとはいえない、と判断してもおかしくはない。
「シリウスさんも強かったんですけどねぇ」
「お、褒めてくれてありがとね」
「うおあっあー!」
「(こくこく)」
テオの言葉に反応して寄ってくるシリウスさん。実際シリウスさんは強かったし、多分俺達が手合わせしてもかなり苦戦させられるだろう……今回に限っては外羽さんの方が何枚か上手だっただけだ。
「シリウスさん相手にも勝てるということは、外羽さんってかなり強いですよね?」
「そりゃ強いよ。華蓮の師匠って天使の中でも一番強い、って言われてたひとだから」
「おあー」
「(へー)」
天使と聞いて勝手に平和主義な存在だと思っていたんだが……そうでもないのか。まぁ平和を維持するためにも一定の武力は必要だろうし、そこまで気にすることでもないのかもしれないが。
「天使の中で……」
「そう、付け加えると当時の……アベル相手に引き分けたって聞いてるんだよね。本気ではなかったらしいけど」
「アベル?」
「うん。彼悪っていうんだけど、知ってる?」
「……」
聞いたことはある、な。アランさんがかつて名前を出していた。剣の一人……だったか?剣である以上一定の強さは担保されているとみて良いと思われるが……駄目だな、情報がなさすぎる。
「強いんですか?アベルさん」
「強かったよー。一週間で千人倒したとか言われるし」
「それは……」
どういう状況なんだ。
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