第三十六話 戦わずとも、弱者ではない・前編
「あ、綾華おかえり!」
「だんなー!」
「華蓮、レン、ただいま!」
「お、れお!」
「……!」
談話室にいたのは外羽さんとシリウスさん、それにスミレ達だった。無言で手を広げるスミレを持ち上げればぽすぽすと小さな手が俺の頬を数度叩き、そして満足したように息を吐く。以前魔術部門に行った際にも同じ反応を示していたが……今日は別に何かを食ってきた訳じゃないんだがな、腹でも減ったのかと思い飴を口に放り込む。イデアはれおと一緒にテオの周りをぐるぐる回っていた。邪魔になるな、と判断して摘まみ上げる。
「どうだった、どうにかなりそう?」
「うん。魔術はちゃんと使えたし……魔力弾の方も、使ってみると案外取り回しやすかった!」
「んなな?」
「魔力弾?魔術部門って別に戦闘はしないよね?」
「自衛用、らしいです」
「成程……確かに自衛手段はあるに越したことはないですもんね」
「人間の魔力弾なんてたかが知れてない?」
「足止め程度にはなる……かな、多分」
「んななん」
シリウスさんの言葉に外羽さんは少し言葉を詰まらせる。実際先輩方も明確に怪異を倒した、と発言したのは夜星さんだけだったからな……他の先輩方は足止めと隠密が主、とも。
「人間じゃないと魔力弾も変わるんですか?」
「変わる……というか、まぁ。魔力量とか性質が変わるからね」
「へぇ……」
テオも知らなかったということは、一般的な知識ではないのか。三人共人間ではないので指摘されると厄介なことになるな……と思っていたが、そこまで気にする必要はなさそうで良かった。
「華蓮は戦闘中に魔術って使うの?」
「うーん?あんまり……使わなくはないけど、基本的に魔術って安定性がないからさ……」
「分かる。結局フィジカルで殴った方が早い」
「なーん……」
「いいんあ……」
「魔術ってどうしても対策されるからね。アンチマジック対策するくらいなら普通に戦った方が早いっていうのと…………ほら、何故か一般的に天使って魔術を使うって思われてるみたいで」
「意表がつける?」
「そうですそうです。そういう奴に限ってタイマン張ると異常に弱いとかありましたからね」
「俺その辺良く知らないけど、華蓮は特にか弱い存在だと思われてただろうから余計じゃない?」
「華蓮ってか弱かったの?」
「いや全然」
「純粋な剣術なら多分俺より上だよ」
「んなん!?」
「うおうえ!?」
シリウスさんは普通に怪異を倒せるだけの実力がある。夏音がいうには一般的な技量よりは上らしいので……そのシリウスさんよりも強い、というのは意外だったな。スミレも口をすぼめて感嘆するような動きを見せている。
「今は鈍ってるから無理無理」
「えー?そう言ってボコボコにしてきそう。久し振りにやろうよ手合わせ」
「いやそれは流石に……」
「華蓮の手合わせ……!剣術……!」
「ほらこの子もおめめキラキラさせてるし」
「…………一戦だけだからね!?」
何だか、面白いものが見れそうだな。
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