第三十話 予行練習・伍
ブックさんの知り合いである、と分かったからかひよりが少しだけ身を乗り出す。確かブックさんってレンリさんとも知り合いだと言っていたような気がするんだが……大分顔が広いな。
「私の記憶が正しければ、あの人真っ先にアカデミーからこちらに来ていたと思うんですけど……どこで知り合ったんですか?」
「え、ええと……」
「歴史部門です」
「歴史部門?……まぁ重戦闘区域の職員ともなれば他の部門に行くことも多いのか、というか一応専門外のはずなのに魔術教えたんですかあのひと、相変わらずだな」
既に前科があるのかブックさん。確かにあの人ならやりかねないな、と思わせるだけの底知れなさがあるけれども。
「ブックさんの魔術って、無茶苦茶なんですか?」
「無茶苦茶も無茶苦茶ですね。そもそも魔術師じゃないので何もかもが我流なんですけど……天宮さんと同じように魔術を初手で理解した上で全ヶ所に均等に魔力を流すとか言う離れ業をやって来ます」
成程、ひよりの実行した魔術展開と同じことを日常的にやっているのか。レンリさんはどうなんだろう、魔術を使っているところはみるがどう使っているのか、までは判別がつかない。ただひよりが今回雪代さんに指摘されるまでこれが通常だと判断していた辺り……レンリさんも同様の魔術構築をしている可能性がある気もするが。
「まぁインパクトとしては充分ですし直せ、とは言いませんけど。ある程度誤魔化した方が良いとは思いますよ。あの教授割と有名だったので」
「有名だったんだ……」
「変人でしたからね」
変な人ではある……か?知的好奇心の為に不法侵入を実行するような人ではあったか。変人かと問われれば限りなく変な人ではあるかもしれない。少なくともまともな人間ではない。
「誤魔化す……っていっても、どうすれば?」
「そうですね……一番簡単なのは起動加速の術式を常備すること……ああ、別に起動している必要はありません。ただそういうものがあれば、理由として納得するかな、という話なので」
一般人は術式が起動しているかどうかは集中してみなければ分からない、と付け足され、以前雪代さんも魔術残滓や魔術痕跡は常時見える訳じゃない、と言っていたことを思い出す。勿論怪しまれればバレるだろうが……一瞬誤魔化す、というだけならそれだけでいいのか。
「あ、それみたことあります。レンリさんが持ってた」
「おや、氷野さんも知り合い……?」
「今レンリさんは重戦闘区域で働いているので」
「何故……?」
「最近色々ありレイスが再構築されることになりまして、その関係で」
「待ってくださいレイスが再構築???」
そこからなのか。本当に興味関心が偏っている……いや本来の反応はこれが正解なのか?魔術部門の職員が支部の動向を気にする理由もないし。




