第二十九話 予行練習・肆
「なんかすごい勢いで術式が展開されてるんですけど、何事ですか」
「あ、ともちゃん」
「ともちゃんだー!」
「珍しー!」
「お、お前がともちゃんか」
「夜岸智代です。……ああ成程、予行練習」
流石にひよりの展開した術式をスルー出来なかったんだろう、夜岸さんが不意に顔を見せる。一瞥しただけで状況を把握した夜岸さんはそのまま踵を返そうとしたが、先に雪代さんの声が飛んだ。
「俺は雪代。んでこっち三人が皇と天宮と入江」
「はじめまして、入江綾華です」
「はじめましてー……?」
やや不思議そうな声色で挨拶するひより。何か気になることでもあるんだろうか、俺の背に隠れたまま服を引いたので視線を向ける。
「どうした?」
「あの人、中戦闘区域の職員です?」
「いや、同じ気配の人は番らしい」
「成程……」
ひよりも気付いたか。夜岸さんも俺とひよりの会話が聞こえたのか、部屋に戻ることを止めてこちらに近付いて来る。
「お気になさらず。見てるだけですので」
「お、そうか?」
「ともちゃんもやる?」
「ともちゃんなら出来そう」
「出来てもやりませんよ。当日参加したくないですし」
「ともちゃんだぁ」
「いつものだぁ」
夜岸の事が気にならない訳ではないが、本人が気にするなと言った以上は言葉通り気にせず魔術に集中した方が良いだろう。意識を切り替えて術式把握を優先させる。
「すみません雪代さん、これ魔力流すの厳しくないですか?」
「そりゃあな。まぁ入江ならこっちの方が良いかもしれんが……」
「うわぁ術式投影」
「当然のように実行される高難易度技術」
「作ってる術式よりそれの方がヤバくない?」
「これ教えるならお前らにだから」
「急に矛先が」
「最初から俺達ではあったよ」
「後で教えます」
「飛び火したァ!」
「予定調和なんだよなぁ」
入江に別の術式を渡し、魔術部門の先輩方を捕まえる雪代さん。ひよりは俺の背中から覗き込むように術式を眺めている。出来なくはないがやはり難しいな、こればっかりは慣れかもしれない。
「……失礼少し良いですか?」
「夜岸さん。どうしましたか?」
少し時間が経って、それなりにひよりの緊張も解けて来たタイミングで夜岸さんから話しかけられる。ひよりもこの人は大丈夫、と判断したんだろう、不思議そうな顔で見上げてはいるが警戒はしていなかった。
「天宮さん……でしたよね、……どこかでお会いしました?」
「え、いえ……」
「……何か、覚えがあるんですか?」
「覚えというほどじゃないんですが……魔術の構築方法が、若干顔見知りの教授に似ていたので」
「……ブックさん?」
「あ、やはり知り合いだったんですね。道理で訳の分からない術式構築を実行するわけだ」
「知り合いなんですか」
「ええ知り合いですね」
世間は狭いな。
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