第十九話 フェア・トレード・前編
「一応自己紹介を。私は夜岸智代、魔術部門の職員です」
「皇志葉です。重戦闘区域の職員です」
互いに軽い挨拶をしてから本題に入る。気配こそやや特殊だが……それ以外の違和感はない、その気配に関してもどちらかといえば後天的な異変……それこそ、その氷室さんなる人物の影響が強そうだった。
「それで、……中戦闘区域で氷室に会った、ということですが」
「正確にそう、と言い切るのは難しいですけど、恐らくは」
「中戦闘区域……成程」
「最近もあったので、恐らくまだいるとは思いますが」
「最近も?」
「はい。本人を確認出来た訳ではありませんが」
少なくとも二回、同じ気配を感じ取ったことがあるのだ。もう一度気配を感じたら人物特定を出来るか……となると、まだちょっと厳しいものがあるかもしれないが、それは単純に相手が逃げるから、というだけなので心構えがあればどうにかなるような気がする。
「次に会ったら……捕まえた方がいいですか?」
「いえ……そうしたいのは山々なんですが、本人の仕事の邪魔はしたくないので……中戦闘区域以外で見かけたら、その報告だけしてくれませんか?」
「それなら……はい」
「お手数をおかけしますね」
「いえ」
「それでは、そちらの話を聞きましょうか」
あっさりと話を切り上げ、俺の方に水を向ける夜岸さん。中戦闘区域以外で見かけたら報告……というのは、どういう意図なんだろう。そもそも中戦闘区域以外で出会うことは有り得るんだろうか。
「……実は、三日後に魔術部門の増員のために候補者が来るらしいんですが」
「増員?……ああ、そういえば今って自称木っ端達しかいないんでしたね、職員」
「ソウダヨー」
「余計な詮索はされなくて楽だったんですけどねぇ。まぁしょうがないか」
「いえ、人は出来るだけ増やしたくないんです」
「ふむ?」
「こちらとしても魔術部門とは出来るだけ事を荒立てたくはないので……」
「良いんですかそれ、ほぼ癒着では……いや、今更か」
「元々研究部門と裏で繋がってたからね!上司が!」
癒着……癒着か。確かに、重戦闘区域にとって都合のいいように人員を配備しようとしている、という観点は否めない。支部は特にその傾向が強いだろう。……それでも結局問題は起こるし、レイスのような事例も起こるのだが。
「それで、私は何をすればいいんです?」
「ええと……」
「三日後の候補者達の面談に参加してほしい!」
「面談に?全員落とせと?」
「いえ、最低限まだマシ、という人物をスカウトしたいんです」
「最低限の人材、ですか……」
「はい」
「…………それなら、ちょっと人を捻じ込んで八百長でもしましょうか?」
……うん?
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