第十三話 郷愁をみる
硬さを確かめるように刃を滑らせる。……普段と変化なし、変異した気配もない。一先ず騒動の影響はなしと判断して討伐を終えた。
「っと……どうしたんだ?」
どすり、と頭をこすりつけるようにぶつけられてたたらを踏む。頭のすぐ近くでスミレがふんふんと機嫌が良さそうに揺れているが……良いのかそれで、そもそも当然のように戦闘区域に出て来るんじゃない。
「お前は、変わりはないか?」
「(こくこく)」
「いやスミレじゃないんだが……問題ないのか?それならいい」
ぐるぐるとゆったりとした動きで俺の周りを回る龍。どうやら勝手に自身の居住区域を中心としてある程度怪異を間引いているようだが……こうやって誰かがいると寄ってくるようだな。人懐っこいんだろうか。
気配がないことを確認しつつ周囲を散策する。こうしていると仕事中だということを忘れそうになるな……そっと、気付かれない程度に目を細めた。
別に見た目が平和な訳ではないし、完全に安全だ、と言い切れるような空間ではない。けれどスミレが笑っていて、何かが起こることもなくて。不意に、このまま逃げ出してしまいたくなるような、胸の奥がどうしようもなく痛むような錯覚がある。
焦燥ではない、恐らく羨望でもない。在りたかったという願いと、在れなかったという事実と。ぼんやりとしたこの感情の正解を、俺は未だ持ち得ない。
「志葉!スミレ!」
「ん、……ゾエか。どうした?」
ぼんやりと思考を回していれば、遠くから気配が近づいて来てそのまま声を掛けられる。転がっていたイデアが声がした方向に向かって伸びて、スミレを乗せている龍もまた興味を示すように声の方……ゾエへと視線を向けた。
「魔術部門行く!」
「魔術部門……魔術部門に?」
「ン!」
何で魔術部門に?ゾエが自ら行こうと判断したとは到底思えないので何らかの呼び出し、あるいは用事が出来た……と見るべきだろうか。
「アランさんに言われたのか?」
「ゆっきー!」
「……雪代さん?」
更に訳の分からない情報が出たな。ただ呼ばれていることだけは事実のようなので見回りが済んだら向かう、とだけ告げる。ゾエも納得して一足先に戻って行った。
「魔術部門……か」
別に東雲が関与している訳ではないんだろう、本当にたまたまこのタイミングで不都合が発生したというだけだろうという予想はつく。研究部門なら何らかの作為を疑うが、上司がごっそり消えた今の魔術部門にそんな不穏なことを企む人はいないと思っているので。
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