第九十四話 貴方の特別になれますか?・後編
「っ誰にもならなくていいって、受け入れてくれたのに、お前がその意思を踏みにじってどうするんだよっ!!!!!!」
俺の言葉に泰誠は驚いたように息を飲む。分かってる、泰誠がそうする選択肢以外を知らなかったことくらいは。けれど、誰かの代わりにならなくていいと他ならぬ東雲さんが示してくれたのに、その言葉で救われたのに、自らの意思で誰かの代わりになろうとするのは矛盾しているような気がした。
「っどうすれば……どう、すれば、よかったんですか……!おれには、それくらいしかできないのに……!」
「代わりにならなければいい」
「……?」
ここからはいかに泰誠を納得させられるかだ。東雲さんも言っていた、泰誠は一度受け入れた認識を変えるのが苦手だって。だから揺さぶって突き崩して……声が届くようにしなきゃならなかった。大丈夫、声が届くなら、言葉を聞いてくれるなら、あとは俺の技量次第だ。
「馬鹿みたいだと思うかもしれないけど、東雲さんは泰誠が個として尊重されることを願って、研究者達は泰誠が東雲さんの代わりになることを望んだ。そして泰誠は東雲さんの意思を尊重したい、なら、代わりになって研究者達を喜ばせるんじゃなく、東雲さんの事を抱えて生きていった方が東雲さんは嬉しいし、東雲さんの意思を継げば、泰誠は泰誠のまま、東雲さんを尊重できるんじゃない?」
「意思を、継ぐ……?」
「そう。東雲さんがしようとしていたこと、守ろうとしたもの、大切にしていたこと。全て真似しろなんていわない、寧ろ同じことを繰り返すのは違うと思う。東雲さんが願っていたのは、泰誠が自由に生きることだから。自由に生きる途中で――――東雲さんと同じことをしても、怒られないんじゃないかな」
「……褒めて、くれますかね」
「うん。褒めてくれるよ。今は東雲さんの分も俺が褒める。生きようと決めてくれたこと、泰誠として生きると決めてくれたこと、全部全部、俺が褒める」
運命なんて知ったことか。俺は俺が守りたい、傍にいたいと願うからこうやって言葉を紡ぐんだ。番だなんて関係ない、そんな概念に俺は縋らない。叶うならば俺の言葉で、理性で納得して生きてくれたら、と願っている。
「……おれは、泰誠のままで、いいんですか」
「いいんだよ泰誠。俺がお前のことを受け入れる。俺は、東雲泰誠という存在がいることを忘れないし間違えない」
運命じゃない、運命なんて言葉じゃ足りない。誰かの代わりになんてなる必要はないし、価値がないなんて言わせてなるものか。泰誠をこれ以上、苦しめさせてなるものか。
「生きよう、生きて行こうよ泰誠。死者は語らないけど生者は騙るんだ、東雲さんを利用しようとする全ての奴らを、俺達が否定しよう」
「そう……です、ね。ええ、今度は俺が、俺達が、透を守る」
「うん」
小さく小指同士を絡ませて。泣き笑いの表情を浮かべる泰誠に笑みを浮かべる。今度こそ、俺は間違えずに守れるだろうか。今度こそ、誰も死なせず、誰も苦しまないように。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
面白かったらブクマや高評価お願いします。喜びます。




