第九十二話 言葉の裏に、過去を重ねて
「……言っておいたぞ」
「ありがとうございます、レンリさん」
レンリさんの声に小さく感謝の意を示す月野さん。かなり疲弊しているように見えるな、だからこそ医務室にいるんだろうが……話しかけなくていい、とは言われていたけど流石に気まずかったな。
月野さんは膝を抱えてうずくまるばかりで何も喋らない。だからかレンリさんも特に傍に寄ることはなく、いつものように席に座ってから何でもないように声を出した。
「お前も随分と難儀な性格してるよ。別に黙ってても良かっただろうに」
「……別に、宇月に配慮した訳じゃないし」
「東雲のためだ、と?」
「例え俺の番じゃなくても、番だったことに違いはないので。……嫌じゃないですか、この世界でも死ぬのは」
「ま、そうだな。魂の半身がいなくなるのはいつだって嫌だろうよ」
番、この世界でも死ぬ。……何の話だろう、というかこれ俺が聞いても良い話なんだろうか。レンリさんは何故か基本的に大丈夫だと思っているので非常に困る。
「一応聞いておきたいんだが。お前の番ってのは……」
「死んでる……と思います。まぁ、生きていても俺がこっちにいる以上番の認識が変わっていてもおかしくはないんですけど」
「それは有り得ないと思うぜ?仮に死んだとしても魂が流転してどっかにリポップするのが常だからな。だから――――この世界で、お前の番が肉体を得てるって方が可能性としては高い」
「だと、良いんですけどね」
まるで、別の世界から来たかのような。いや、事実としてそうなんだろう、滅多にないことではあるが異邦から人が来るらしいので。そういう人物は例外なく何らかの特殊性があるため、職員として働いていることに何ら違和感はない。
「レンリさんは、レンリさんなら、どうするんですか」
「ん、俺?そうさなぁ……取り敢えず一発殴ってから考える」
「何で!?」
「だって俺なのに番だって気付かないとかたるんでるにも程があるっていうか……」
「そうだったレンリさんってそういうところあるんだった……」
すごい自信だなレンリさん。異邦の自分に対しても同じだけの実力があると信じて疑っていない、……つまりレンリさんは一目見ただけで相手が自分の番かどうか、というのが分かるのか。人間が番を判別出来るのはかなりレアなのに、レンリさんならやりかねないと思えるのがすごい。
「……ちゃんと、救えますかね」
「…………ま、あそこまでお膳立てされたならちゃんとなるようになるだろうさ。なんてったってお前なんだぞ?」
「俺だから心配なんですよ!」
「大丈夫だっての。俺は嘘なんて言ってないぞ?」
「不安すぎる……!」
けらけらと笑うレンリさんと、その反応に不安を覚える月野さん。決してレンリさんの信頼がない訳じゃないが、今この状況においては信用度が低い。
「大丈夫だよ。心配しなくていい」
「……」
「大丈夫だから」
冗談っ気のない、ただ静かに紡がれた言葉を月野さんは否定しない。代わりにそのままソファに転がれば、レンリさんは軽く笑ってからブランケットを取りに席を立った。
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