第八十七話 俺達にとって、大切な
「なぁシリウス。お前、天使に未練はあるか?」
「み、れん?」
話の方向性が変わったな。シリウスさんの反応からしても突拍子もないことを言っていそうだ。天使に未練があるか?だなんて普通は聞くようなものじゃない。未練の有無で種族が変わる訳でもないので。……本来ならば。
「そう。お前が天使のままでいたいのなら、純愛の天使として生き続けたいなら、それはまぁそれで良い。それならそれで勝手に守るだけだ。お前も一緒にいたいと願ってくれてるのが分かったからな。だが――――万が一、天使でなくてもいい、というのなら」
「待ってアルマ。……本気なの?」
「言っただろ、俺はお前に願ってほしかった、って」
アルマさんの視線は揺らがない。寧ろいつにもまして強い光を宿したまま、シリウスさんへと問いを投げかけている。荒唐無稽な話を、現実にしようとしている。
「叶うなら、願うなら、許されるのなら。――――お前の羽根を手折る権利を、俺にくれないか?」
「羽根、を……」
「随分と思い切ったことを考えますね」
アランさんが平然としたままそう言ったので視線を向ける。羽根を手折る、それはつまり……天使としてのシリウスさんを、殺す?
「羽根を手折るとどうなるんですか」
「天使の羽根は肩書……先ほど言った”純愛の天使”としての性質を内包しています。故に、羽根を失えば性質を失い……俗にいう”堕天”という状態になりますね」
「成程」
「正直堕天した事例はそう多くないので俺も詳しくは知りませんが……天使の羽根は本来回復するものなんですが、剣は因果の破壊を行うことが出来るので……」
「羽根を永久的に手折ることが可能……?」
「はい」
それは、アルマさんにとっては願ってもないことだろうな。純愛の天使である限りアルマさんのことを優先してもらえないのなら、是が非でも手折りたいに違いない。それでも本人の意思を尊重するのは……嫌われたくないという感情か、それとも僅かな引け目なのか。
「アルマは……良いの?羽根を失ったら弱くなるかもしれないし……何かが、欠ける可能性もある」
「俺は問題ねぇよ。寧ろ、お前の方がきついだろ」
「俺は別に……今までと変わらないし。寧ろこれで失うのが最後になるなら、願ったり叶ったりだよ」
アランさんが俺を促すようにして少し距離を取る。……何か、大掛かりなことをする気なのか。何やらぴりぴりと肌を刺すような感覚がしたので、軽く幽撃で壁を作る。
ふわりと現れた羽根の根元に触れるアルマさん。視界を切り替えれば魔術式に似た何かが空中へと浮かび上がる。……何もないのに圧があるな、アルマさん達の周囲だけでなく、この一帯全てに圧がある。
「……本当に良いんだな」
「うん。お願い」
血のような赤がきらりと光る。周囲の威圧ごと全てを断ち切るように、羽根と共に細かい粒子がきらきらと降り注いだ。
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