第八十六話 貴方にとって、
揃って地面に降り立つ。会話の邪魔にならないように少し移動すれば、アランさんもまた隣に移動してきた。二人の会話を見守る……のは、良いんだろうか。ここで双方の納得が成されなければ移動もままならないか。
「……」
「シリウス。……どうだった」
「どう……って、言われても」
「あれを見ても尚、俺は庇護対象になるか?」
「…………」
戸惑うようにシリウスさんの視線は泳ぐ。アルマさんは力を示した、戦い抜く、守り抜く強さを見せつけた。あれでもまだ足りないというのならもうお手上げじゃないだろうか、強さとは別の何かが納得いかない、ということになるので。シリウスさんも強さを否定することはなく、されど問いには答えない。
「別に……最初から、アルマを守れるとは思ってない、けど」
「オーケイ聞き方を変えよう。……お前は、今でも逃げたいと、俺を巻き込むわけにはいかないと思ってるのか?」
「……それが、俺だもの。そうあれかしと望まれたんだもの」
「そうだな。純愛の天使、私欲も邪念もない、ただ純粋な感情を起因とする天使。故に、ただ一人を愛することは出来ない」
「そうだよ。……そう、なんだよ」
純愛の天使。肩書故にシリウスさんはアルマさんへの感情を表に出来ない。……それでも大切だと伝わる程度にはちゃんと執着していた気がするが。アルマさんからしてみれば最後の一歩こそが大切で、どれだけ言葉を重ねてもシリウスさんが”純愛の天使”として存在している間は目的を達成出来ない。
「お前の意思は、まだ見せられないか?」
「分かんない……」
泣き出しそうなシリウスさんと、そんなシリウスさんを優しく見つめるアルマさん。アランさんは何も言わず、二人の様子を眺めている。何を考えているんだろう、表情からはなにも読み取れない。
「なぁシリウス、俺への感情も天使としての憐憫だったのか?それとも決死の抵抗だったのか?お前にとって俺は、単なる番だったのか?」
切り込んだな。否定されても肯定されても傷付くと知りながら、アルマさんは問い掛けた。必要だと理解していてもそうそう出来ることじゃないだろう、嘘かどうかを見抜けるならば猶更。
「俺は……俺が、アルマに生きていてほしかった。アルマだけを愛したかった。この感情だけは失いたくなくて、それで……俺は間違えた」
「違う。間違えてなんかない。間違えたのはシリウスの感情を奪おうとした相手だ」
感情を一つずつ紐解くように、過去を一つずつ見定めるように。薄氷の上を歩くような危うさでアルマさんとシリウスさんは自分達の言葉を紡いでいく。間違っていたこと、合っていたこと、許せなかったこと、許したかったこと。隔たれた時間を埋めるように、伝わらなかった言葉を伝えるように。
「お前の言葉が聞きたかったんだ、俺は。結論がどうであれ、お前に俺を見てほしかった」
「俺に……」
「ああ。知っての通り俺は何もかもが嫌いで、お前に対しても酷いことばかり言った。番だからと甘えて、お前に無理ばかり言った。だから本当は、お前は俺から逃げても仕方ないな、と思ってたんだ」
「酷いことなんて言われたっけ……?確かにどうしようもないことを言われたことはあったけど、俺はアルマとの日々、楽しかったよ」
心底不思議そうに、本心を開示するように。先程までとは違う柔らかな肯定に、アルマさんは少しだけ驚いたような表情を見せてから、そっと口角を上げた。
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