第八十四話 世界にとって
こじ開けられる扉をじっと見ている。破壊するほどの強さはないし、無視出来るほどの実力もない、だからこうして傍観していられる。平静を装ったまま、やるべきことのために準備することが出来る。ひとつ、息を吐いて前を向いた。間違えないように、見失わないように。
「……来るぞ」
「はい」
空気を蹴って更に上空へ、相手の手が届かない遥か高みへと駆け上がる。気配を察知されて逃げられたらたまらないのでギリギリまで存在は秘匿するように、確実に仕留めるために限りなく意識を集中させる。
「――――引き摺り下ろす」
二撃目の想定は必要かもしれないが、倒せないかもしれない、だなんていう弱音は必要ない。今更腕程度にやられるものか、いずれ全てに終止符を打つつもりなら、この程度の相手、一撃で決めるべきだ。
刃は本質を捉えるように。それでいて相手に悟らせないように。必要なのは斬ったという事実だけだ、相手がその事実に気付く必要はない。ましてや俺に気付く必要性も。
「何も知る必要はない。何も気付く必要だってない。……全てが為されたそのときに、後悔すればいい」
刃が通る。僅かな不快感の後に激しくのたうち回るような気配があった。流石に完全に気付かれないまま斬り落とすのは不可能か……逃げられる前にアランさんから借りた剣に持ち替え、切り離した腕へと突き立てる。
「アルマさん!」
俺の方はもう動かないだろう、残るのはアルマさんが対峙しているもう一本の腕。負けるとは思っていないが、どうやってとどめを刺すつもりなのかは分からない。
「これは、証明だ」
静かな声が耳をうつ。感情を抑えた、限りなく平静を装った声が腕へと向けられて鋭い緋色が真っ直ぐにあいつらを射抜く。
「お前らは失敗した。封じたところで名前は消えず、消し去ったところで事実は覆らない。それどころか時を越えて今、お前達の恐怖は現実になる」
大言壮語ではない、虚勢でもない。限りなく丁寧に綴られた宣戦布告、一方的な侵略に対する、一方的な討伐宣言。どちらも噛み合いはしない、噛み合う訳がない平行線の主張だ。故に相手はノータイムでアルマさんを打ち据えようと手を振り上げたし、アルマさんは真正面から打ち合うかのように腕に向かって半身を引く。
「ッアルマ!」
焦ったようなシリウスさんの声に、アルマさんは不敵な笑みを見せる。言葉を返すのではなく、行動で魅せるように、改めて視界に腕を収めたアルマさんは、振り下ろされる腕に向かって真正面から拳を突き上げた。
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