第八十三話 三者三様の・後編
何の憂いもなく、何の躊躇いもなく。アルマは上へと反旗を翻して、同僚二人も協力を肯定した。そんな簡単な話じゃないのに、いくらアルマが強くても死んじゃう可能性の方が高いのに。
「どうして……」
「何か、気になることでも?」
「……何で、無茶だと分かってて戦うの?」
気が狂ってるとしか思えない。一応目の前にいる人間は上司、のはずなのに止めるどころか推奨するし。その上自分も参戦するとか。余程死なない自信があるのかな、それとも逃げ切れる自信がある?やけに落ち着いているというか、正気に戻ってからずっと口調もテンションも平坦で分かんない。
「無茶……ですか。別に、私も志葉さんも、ましてやアルマさんだって無茶だとは思っていないんですけどね?」
「無茶だよ。相手が悪すぎる」
「一般的に見ればそうでしょう。ですが、ここはヒュリスティックで、私達は重戦闘区域の職員です。戦うこと、討伐することが本職である以上、無茶なことにはなり得ない」
「……正気じゃない」
「ええ、最初から」
歌うような軽やかさと、自身に満ち溢れた声色。……本当に、あいつら相手に勝てると思ってそうなんだよね。多分アルマよりもはっきりと確信してそう。
「知らない訳じゃないんでしょ?危険性も規模も」
「そうですね。しっかりと把握していますよ」
「それでも、大丈夫だって言い切るんだ」
「少なくとも今は、脅威足り得ませんから」
肉体がないから……ってことだよね。確かに直接的な干渉はかなり鳴りを潜めてはいる、いるけど……だからといって人間が対処出来るレベルか?と言われると首を振るしかない訳で。
「シリウスさんは……心配ですか?」
「そりゃ……心配だよ。いくら強くても、剣がいないと解決なんて出来ないはずだし」
「そうですね。因果を断ち切るためには剣が必要です。だからこそアルマさんがいる」
アルマが?俺の困惑を無視して上司……アランだっけ?は視線を上空に持ち上げる。視線の先にはアルマと部下の……皇?がいて、まだ何もいない空間をじっと見つめている。
「アルマさんは、剣です。誰にも認められず、本人も名乗ることがないまま封じられてしまったので曖昧になりましたが。――――アルマさんは、貴方と共に生きる力が欲しくて、あそこまで強くなったんですよ」
「――――はっ、何、で」
俺は逃げたのに。無理だって諦めたのに。アルマはずっと待ってたの?探してくれてたの?番は見付からなくても平穏に生きるくらいは出来ただろうに……。
「俺がいたら、アルマは一生そうやって生きるの?」
もしそうなら俺は間違えた。出会うべきではなかったし、再会だって間違いだ。これ以上の迷惑はかけられない、これ以上は、一緒にいるべきではない。
「シリウスさん」
ぐるぐると思考を回していたらアランに肩を掴まれる。穏やかな視線が気まずくて目を逸らしても、柔らかな声が脳をかき混ぜる。
「憶測だけで判断せず、ほんの少しだけ、シリウスとしてアルマさんの言葉を聞いてみませんか?」
……それじゃあまるで、俺がずっとアルマの言葉を聞いていない、みたいな。
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