第八十一話 されど、我儘は救いだった
「……そんなこと言わないでよ。じゃあ、どうすればよかったの」
「だから言ってるだろ。連れ出せばよかったって。全部捨てて逃げたって良かったんだ」
「……せめて、アルマには生きててほしいって望むのは、わるいことだったの?」
「悪くはないが、独り善がりではあったな」
独り善がり……か。多分相手にただ生きていてほしかっただけなんだろうが、そこで相手の気持ちを考えられなかったら結末がどうであれ独り善がりとして判断される。非合意で一方的なら尚更。……当たり前の話だが耳が痛いな。
シリウスさんはただアルマさんに生きていてほしかった。それ以上を望むことは厳しい、と判断したし恐らく一番確率が高い選択肢を取っただけなんだろう。だが、それをアルマさんは望んでいなかった、それを理解してもらうように、アルマさんは殊更に優しくシリウスさんへ声をかける。
「一言、一言で良いから願えばよかったんだよ。生きようでも死のうでも、何でも叶えられたんだ」
「そんなワガママ……!」
「我儘ぁ?……見てろよシリウス、我儘ってのは今からやるようなことを言うんだ」
やけに自信満々だな、と思っていたらアルマさんの視線が俺達に向く。……成程、今から俺達に我儘を言うのか。
「アラン、皇、今から二人には無茶をしてもらう」
「分かりました」
「はい」
「具体的には犯人引きずり出すために暴れてもらう。腕一本斬り落とすぞ」
「腕が鳴りますね」
腕……というのは、以前見たあの大きな腕、だろうか。成程確かにそれは本来ならば無茶ぶりだろうな。もっともアランさんはやる気だし、俺としても戦えるのなら否はないんだが。
「待ってアルマ、それは流石に……!」
制止しようとしたシリウスさんに、アルマさんはひらりと手を振ることで大丈夫だと示す。確かに上位存在が相手となるとかなり苦戦はするかもしれないが、腕一本だけで済むなら充分戦力としては足りるんじゃないだろうか。少なくとも俺の本能は脅威にならない、と判断したぞ。
「では、まずは相手を煽って誘き出しましょうか。出来るだけ派手にやりましょう」
「分かりました。手加減は必要ですか?」
「不要です」
手加減も不要、となればいよいよ戦力過多になるだろうな。俺達が動揺もなく、寧ろ好戦的であることに違和感を覚えたんだろう、シリウスさんは中途半端に手を持ち上げたまま困惑の視線を向けて来る。
「今回は実質予行演習だ。この程度の襲撃すら対応できなきゃ、あの二人を救うなんて出来やしねぇ」
「そうですね。完膚なきまでに、文句のつけようがないくらいの勝利を収めないと」
そのためにはまずかなりの量の怪異、あるいはそれなりの強さの怪異に出て来てもらう必要があるな。倒し続ければ出て来るのか、それとも……多少威圧して怪異を誘引する方がいいのか、考え物だな。
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