第七十八話 対価を捧げ、道を拓く・陸
「これで大丈夫ですよ」
どうして俺なのか、を問う前に東雲さんは会話を切り上げて青藍さん達の方を向く。追及すると藪蛇になりそうで思わず口を噤んでしまった。……今思えば、踏み込むことを躊躇えば遠からず手遅れになる、と学んでいた筈なのに。
「皆さん、ここまでお疲れさまでした」
「……東雲さん?」
「儀式は止まりました、泰誠の意識もここから出れば戻るでしょう。シリウスさんの件だけが心配ですが、皆さんならば乗り越えられると、そう信じています」
「……何を、言っているんですか」
皇の声が硬くなる。ちゃんと言葉を聞き取れないらしい青藍さん以外の全員が警戒するように動きを止めて、東雲さんに視線を向けた。ただこちらを労わる言葉……にしては、どこか他人事のような。まるで、ここでお別れのような。
「死者が手伝えるのはここまで、ということです」
「……!」
死者、と改めて事実を突きつけられて息を吞む。最初から理解はしていた、別に知らなかった訳じゃない。……ただ、こうやって言葉を交わして、触れあっている内に死者であるという実感が薄くなっていただけで。生者となんら変わりのない行動を見て、誰が死者だと認識出来るだろう。
「ヘブンという、時が止まった境界の地だからこそ私は姿を保ち、言葉を紡げていました。故に、時が進めば、境界が正しく引かれれば、私は有象無象の思念と成り果てるでしょう。……どうか、泰誠のことをよろしくお願いします」
「待ってください東雲さん、まだ――――」
「分かりました東雲さん」
引き留めようとした俺の肩を掴んで止めたのは皇で、足元に現れた魔術式に動揺したのか入江がたたらを踏む。下がり、止められた俺と入江を追い越して皇は一歩だけ踏み込んだ。
「また来ます。今度は、アランさんと東雲と共に」
「――――どうして」
「まだ、終わっていないので」
終わっていない?皇の言葉は確信に満ちていて、東雲さんですらも虚を突かれて動きを止めた。それでも魔術だけは無慈悲にも動き続け、視界が白く染まっていく。
「っどういうこと!?」
「話は後です。アランさん」
「…………そうですね。青藍、月野さんと入江さんと共に東雲さん、夏音さん、宇月さんの避難を。志葉さん、動けますね?」
「はい」
「本当に切り替えれるんだ。早いね」
山ほど疑問はあるけれど、なにやら恐ろしい気配があるのは俺でも分かる。困惑していた入江も、沈黙を保っていた月野さんも今は早急に対処しないと不味い、と判断したらしくそれぞれ東雲と俺を抱え上げた。
「……後で説明、絶対してよ」
「分かってる」
言いたいことを全部飲み込んで、俺達はその場から離れるしかなかった。
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