第七十七話 対価を捧げ、道を拓く・伍
「……宇月さん」
「はい?」
視線は向けられないまま、声だけが掛けられる。あくまでも世間話のように、俺が警戒しないように、他者に興味を持たれないように最大限まで配慮された声のトーン。ちらりと視線を入江達の方に向ける、幸か不幸か、東雲さんの声に反応はしていないようだった。
「ありがとうございます。泰誠の傍にいてくれて」
「そんな……俺は、何も出来ませんでしたよ。寧ろ、俺のせいで泰誠は引っ張られた」
「だからこそ、です。……泰誠が自己を開示したいと望めるほど、貴方に心を許していたという証左ですから」
「……」
助けを求めようとしてくれた、それは良い。力及ばず手は届かなかった、それも納得出来る。……出来るけれど、だからといって前向きにこの状況を受け入れられるかと言われれば全力で否だ。もっと方法があったんじゃないか、泰誠が苦しまないようにすることも出来たんじゃないのか、と”もしも”ばかりが脳裏を駆け巡る。
俺の沈黙に疑問を持ったんだろう、東雲さんは少しだけ動きを止め、俺に視線を投げ掛ける。俺が返せる言葉はない、黙って言葉を聞いているだけだったのに、東雲さんは柔らかく目を細める。
「私やアレンでは、泰誠を守れても手を取ることは出来ません。泰誠にとって私達は上司のようなものであって、パートナーにはなれないんです」
「それは……」
「事実として上司のようなものではありますが、そもそも精神性として泰誠は私達を対等だと認識しない」
「……」
それは、刷り込みの効果も一部あるだろう。それ以上に泰誠は他人と距離を取ろうとする傾向がある。いつだって一線を引いて、自分の意思を主張しないまま相手の主張を受け入れる。いつだってそうだ、泰誠が自分の意思で他人に踏み込もうとすることなんてほとんどない。
「対等で……あれたかな」
「対等でしたよ。無意識に貴方を守ろうとするくらいには」
「無意識に?」
「ええ。自分に降りかかる引力が他の職員にも同じだけ降りかかるものだと誤解して、自分の保護よりも先に宇月さんの保護を実行してしまうくらい」
これは……どういうことだ?泰誠は自分が呼ばれていることに自覚があった、けどその対策より俺の保護を優先して、その結果泰誠は利用された……?実働部門でもなければヘブンの関係者ですらない、重戦闘区域の医療部門職員である、俺を?
「どうして……」
「泰誠にとって、あなたは誰にも代えがたい存在だったんでしょうね」
……俺が?
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