第七十二話 終わりの、
倒れ込む東雲を片手で支え、視線を巡らせる。気配はあるが反応がないな、こちらを伺っているように思えるが、はて。
『よくも神の子を……!』
「神の子、か」
姿はないのに音だけが聞こえたな。神、だなんてよくもまぁ大きく出たものだ。ただ大きく定義すればいい、というものでもあるまいに。別に俺も入江も相手の真意など興味がないのでそのまま視線を交わし、東雲を移動させる。
『儀式を止めるな。生贄を逃がすな……!』
「悪いが、その要望は受け入れられない」
明確に相手を否定する。正直、俺は生贄でもないし儀式の関係者でもない、故に声の主からしてみればただただ邪魔な存在、反論されるいわれもないだろう。そんなことはとうに承知の上、理解した上で俺は口角を上げる。
「お前の願いは叶わない。俺がいる限り、”東雲泰誠”を利用することは叶わず、”アレン・アンシエント”を目覚めさせることも叶わない。お前に出来るのは、俺を殺すか、俺に殺されるかだけだ」
大言壮語だろうか。そもそも姿すら見えていない相手、気配だけならどこにいるのか分かっているともいえるが、こちらに攻撃手段がない。まぁ誰かに憑依するだとか、それこそ本当に――――無垢を捨てるならば、いくらでも対抗出来るが。
『……殺す。殺す、殺す!』
「そうか。出来るものならやってみろ」
俺を倒す手段があるのか。攻撃手段があるなら好都合、気配察知を出来るだけ絞り、相手の一挙一動に注意する。もし本当に攻撃手段があるのならば、タイミングを合わせて同じことをすればいい。
「……成程、そう来るか」
あてが外れたな。周囲を取り囲んでいるのは例の厄介な怪異達。儀式の式神のようなものだったのか、確かにやけに数が多かったし、アレンさんに影響を及ぼすとも聞いていたけれど。かなり骨が折れるな、と判断したのも束の間、徐に怪異達が集まり始め、考えが改められる。
「――――はは、随分と楽になった、な?」
人型のような、悍ましい姿のような。少なくとも今までの姿とは一線を画していることだけは分かる。どちらをとっても中途半端な姿だな、せめてどちらかに振り切れてしまえば楽だっただろうに。
「まぁ、俺はアランさんほどの優しさもないし配慮なんてものもない。だから」
双剣を握りしめる。あの大きさの怪異を倒せば大きな影響が出ることは免れないだろう。まぁそれに関してはアレンさんも気付いているだろうから問題なし、と判断して幽撃を起動した。
「悪いな。せめて一撃で決めようと思う」
いつも通り、それでいて痛みはないように。
滑らせた刃は思っていたよりも簡単に核を貫いて、そのまま解けるように消えていった。
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