第六十八話 立ち塞がるは、
空間が軋むような音がする。無理矢理世界を繋げるような、是が非でも過去を再現しようとするような。逆らわないと相手の思う壺だろう、かといって抵抗し続ければ歪みが肥大化して目の前にいる存在の変異が進む。
「厄介ではあるが……」
目的と合致はしているな。懸念があるとすれば変異方向が歪んだ結果どうなるかが未知数だ、ということくらいで。正直変異を促す時点で方向性なんて曖昧になるものではあるんだが。
変異した思念は相変わらず致命打を与えられないまま渡り合っている。じわじわと変異が進んでいる気配はあるが、この調子で行くならばかなり時間がかかるだろう。
「……いっそ、まとめて倒す方が楽か」
アランさんがアランさんであるならば、意識を失うことがないのならば。必要なのは安全策ではなく迅速に事態を解決するための合理性だ。引き寄せようとする流れに逆らわず寧ろ空間をこじ開ける、随分と馴染みのある気配に、状況が複雑であることを把握した。
「わ……!」
「皇!」
「大丈夫です。アレンさん達は自衛をお願いします」
「それは、構わないが……」
「本当に大丈夫なの?大分……中心に向かうみたいだけど」
「承知の上です。どちらにせよ根本的な解決はするつもりだったので」
「そう」
空間が統合されるまでの僅かな時間で意思疎通と報告を済ませる。特にアレンさんにはこの先更に引力としては強くなるだろう、正直アランさんがアレンさんを押しのけてまで意識を取り戻すことはないと思うが、それこそ本当にまたあの厄介な怪異が現れたらどうなるかは分からない。
降り立った先では青藍さん達がなにやら黒い……縄のようなものに絡まっている。気配だけで判断するならば恐らく生物に近い何か、だな。恐らく存在としては怪異だろうと思われるが、変異したての思念くらいの曖昧さだ。そして少し離れたところに東雲によく似た誰か……恐らく東雲透さん、が捕まっている。その視線の先には、ゆらりとこちらを見つめている東雲の姿。
「……成程」
正気ではない、意識も恐らくはない。虚ろになっても尚煌々と光り輝いている琥珀色の瞳は、俺ではなくきっとアレンさんに向けられている。
「皇!」
「入江か。無事だったんだな」
「色々あって。……あんまり話してる時間はなさそうだね」
「ああ。今から二人で、東雲を正気に戻す必要がある」
やや遅れて虚空から飛び出してきた入江は、周囲を一瞥してから俺の隣に立つ。戦力としては充分だろう、何故入江だけが別行動をしていたのかは気になるところだが、話を聞くのは後で良い。
思念体だった怪異が東雲に融合するように収束していく。これで漸くスタートライン、そしてここがこの騒動のクライマックスだ。
「行くぞ入江」
「了解!」
俺と入江が武器を構えたタイミングで、東雲の腕が上げられた。
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