第五十二話 裡より探る
適当に二、三体怪異を殴って少しだけ月野と距離を取る。狙いが俺なら釣れるだろう、と踏んだのは間違いじゃなかったらしく、怪異が殺到して来たタイミングでアイコンタクトをとり、敢えて距離を離した。
「青藍さん!」
「っ俺はいい!お前はっ……!」
言葉の途中にも関わらず、足元から誘われてる感覚がする。狙い通りだったかた逆らわずに体を投げ出して更に深く潜り込めば、視界が一瞬ブラックアウト。手首から伸びる細い糸が切れていないことをちらりと確認してから薄く口角を上げた。
「あっぶな……」
怪異に両手両足が若干絡めとられてるけど……視界は良好、精神異常も起きてないな。行動制限程度なら御の字か。ぐねぐねと俺を取り込もうと動いている怪異を適当にあしらいながら時間を稼ぐ。
「……なんでこんなところに職員じゃないやつがいるわけ?」
ビンゴ。俺という餌につられてのこのこと姿を現したな。知らないふりして顔をしかめ、出来るだけ本調子ではないようにみせる。
「極上の餌が落ちてきた。こいつを喰らえば儀式が再開出来る」
「……人間のくせに怪異みたいなこというじゃん。汚染でもされてる?」
「手足を溶かせ。逃げ場を無くせ」
「意志疎通出来ないタイプかよ……」
せめて人間なら会話くらい出来て欲しいんだけどな。よくよく見れば焦点も合ってないし口から泡吹いてるわ、ちゃんとした人間なわけなかった。
「情報は取れなさそうだけど────ここは、割と立地としては好条件だよね」
指先がぴりぴりと痛む。酸程度じゃ溶けないけど服を駄目にされたくなかったから、勢いをつけて引き抜いた。糸も無事だし服も無事、じゃあもう月野の到着を待つだけだ。
「空間の支配権がないから無力だと思った?だとしたら残念、大はずれ」
いつもみたいに自由自在とはいかないけど、繋がってる空間から人を呼び出すことくらいは造作もない。なんせ物理的に糸で繋がってたからね、空間に直接作用するとかじゃないから余裕だよ。
糸を強く引けば幕が上がるように月野が現れる。無から唐突に現れた侵入者に周囲が反応するより先に、月野の手から何本もの糸が伸ばされる。
「塵も遺さず消えて」
「おー……一瞬じゃん」
「先に仕込めましたからね。調子はどうですか?」
「ん、問題ない」
一応人型だったんけど容赦なかったな。細かい怪異も綺麗さっぱり退治してくれたから周囲に音沙汰はない。とはいえ空間が崩れる気配もないからどこかへ繋がる道があるだろうと判断し探索すれば、どこへ伸びているかも分からない地下への階段を発見した。
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