第三十四話 放棄された支部・捌
カタン、という何かが落ちるような音がして意識が逸れる。俺だけじゃなく青藍さん達も視線を室内へと向けた。扉の向こう、何か……落ちるようなものはあったっけ。誰もいないのに物が動くなんてこと、本来ならば有り得ないけれど……怪異が湧いているなら可能性はある。
「何か……落ちた?」
「確認します」
「待って俺がする。万が一があるから――――」
かくん、と青藍さんの膝が崩れる。慌てたように手を伸ばしたのは月野さんで、俺も駆け寄ろうとした刹那、何かが視界端を過って思わず目で追ってしまった。
白い……布?咄嗟に思い出したのは東雲さんのことで。青藍さんと夏音が会っているのならここに居てもおかしくないはず、どうして、を問う前に夏音くんの焦ったような声が耳をうつ。
「っ青藍さん!」
いつの間にか開いていた扉、無抵抗のまま引かれる腕と、反応のない青藍さん。月野さんが咄嗟に糸を青藍さんに絡ませて、辛うじて足を止めさせる。直前まであったはずの部屋は消え失せて、どこまでも続く真っ黒な空間が、青藍さんを引き込もうと手をこまねいている。
「っま、ずい……!」
糸は絡まっているのに、青藍さんが引きずり込まれていくのを止められない。夏音くんが駆け寄ろうとしたことに気付いたんだろう、月野さんはちらりとこちらに視線を向けてから、一気に糸を手繰り寄せて自分が急接近する。
「俺が追う!三人はここで待ってて!」
俺が何かを言う前に月野さんが追おうとしていた夏音を制し、青藍さんを抱えたまま扉の向こうへ消えていく。扉が閉じられた後開けたけれど、その先には先程までと同じように室内が広がってるだけだった。
「連れて行かれた……青藍さんが?」
「もしかして……前回、青藍さんは取り込まれかけたから、狙われていた……!?」
「確かに、空間の支配権を握ってるのは青藍さんだから狙われてもおかしくない……けど、青藍さんって……強いよね?」
「うん。その筈……」
青藍さんの意識を一瞬で刈り取れるくらい強い怪異がいる、ということかな。あるいは……青藍さんに有利が取れる方向性の変異をしたということ?
「どちらにせよ困ったことになったな……」
「そうだね、待機とは言われたけど……うわっ!?」
「っ!」
宇月さんの大声に身を翻しながら大きく飛び退こうとして――――足が空を切る。不味い、と脳は判断したけれど体は思うように動かない。せめてもの抵抗で宇月さんの手を引き、抱え込む。夏音くんに指示を出すことは出来ず……寧ろ何かが背後から迫ってきているのを見て、忠告だけを飛ばす。
「後ろ!」
「なっ……!?」
夏音くんが杖で一撃を防いだことだけは見えた。けれどそれしか分からなくて。
そのまま、俺と宇月さんは別の位相へと飛ばされた。
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