第三十三話 放棄された支部・漆
「入江、読み解ける?」
「時間はかかりますが……恐らくは」
「じゃあちょっと宇月と一緒にそれ解読して。夏音と月野はちょっとこの先について相談」
「はい」
「俺もですか?」
「罠把握出来てるの、お前か宇月だけでしょ」
青藍さんに指示され、世界視を起動して本を読み解く。ある程度は読み取れるけれど……やっぱり名前と思しき部分が酷く掠れてるな。宇月さんにもそのことを告げて、どうにか読み取れないかと話し合う。
「東雲透さん、の手記なら……内容的にもこれ、泰誠のことを話してると思うんだけど」
「そう……だね、バックアップ要員、とか書かれてるし多分そう……」
個ではなく、代わりとしての扱い。……作られた存在で、”東雲泰誠”という存在は望まれていなくて、……どういう感情で東雲は生きて来たんだろう、果たされなかった目的を、いつか来る最期を、どう感じて。
他のページを見ても東雲の実験について書いてあるだけで、特段目ぼしい情報は見付からない。……どうして東雲さんはこの本を青藍さんに託したんだろう、東雲に本来の目的を思い出してもらうため?でも東雲自体はヘブンに連れて来られている筈だし……なんだか、しっくりこないな。
「……」
「あれ?」
「どうしたの?」
「ここ……これ、このページを読んでほしいんだけど」
「ええと、なになに……?」
示されたページを目で追う。このページだけ……書かれた時期が違うのか?いや違うな、多分この本に後から差し込まれただけだ。……どうやら東雲の実験に対する騒動……のようなものの一部始終が書かれているらしく、軽く読み流しながら顛末を探す。
「これは……」
「ここで否を唱えてるの、東雲透さんじゃない?」
「え?……あ、本当だ……」
つまり……?東雲さんは、東雲に自由になってもらいたかった、っていうこと?顛末を見ると、東雲を引き取ったのは東雲さんの意思、と知れる。どういうことだろう、順当に行くなら……東雲さんは、東雲を”代わり”にしないために引き取った、研究者達から引き離すために連れ出した、と読み取れるんだけど……そうなると何故東雲があんなにも代わりであることを重要視しているのかが気になる。
「どういうこと……?」
「…………やっぱり、この東雲透って人、泰誠を代わりになんてしたくなかったんじゃないか」
「でも、東雲はそう思ってない……」
「誰かが……泰誠にそう吹き込んだ?それこそ、この騒動があったのなら先に泰誠を洗脳しようとしていてもおかしくないし……」
「だからこそ、東雲さんはこの本を残した……?」
「多分……?」
なんだか……回りくどいな?
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