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レモンティーン  作者: 守山みかん


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137/139

百三十七

新谷(しんたに) (こう)の行動いかんで、『予言』の達成度合が左右される、という状況は、大海に手紙入りのビンを投げて、遠くにいる特定の友人に届けられるかを検討するのと同じくらい、不確実な状況と思われがちですが、確実性を得ることは可能です。

なぜなら、利得を目的とした場合、市場という制約のある経済範囲に、必ず新谷が姿を現すことになるからです。

新谷の爪先(つまさき)がどこに向くかは、数えるほどの選択肢しかありません。

その選択肢を全て管掌(かんしょう)できれば、『砂場(SandBox)』で遊ぶ子供と同じです」

「新谷の行動パターンをある程度、予測できていた、ということですね」

そこで、水野が訊ねる。

「『IMEA』の登録会社は5社しかありません。そして、岡産業を除く4社は、技術提携関係にあります。

『予言』を持ち出した新谷は、かつてラズベリースケール社の研究員だったこともあり、ウィリアム・ゴースワンと親しい関係にあるとなれば、流れは決まっています。

『予言』を手に入れたゴースワンは、他の提携会社と協力して、『予言システム』の開発に取りかかったのです。

そして、当然ですが、私とゴースワンの間では、情報共有が行われています」

「『予言システム』の基本機能について、教えて下さい」

そこで、水野から質問が入る。

有利香は淀みのない供述を継続しながらも、『予言システム』の概要説明に流れていった。

まるで、水野からの質問内容があらかじめわかっていたような、切れ目が無く、(なめ)らかな展開だった。

「『予言システム(LARGE)』の基本機能は、特定した未来を達成するための行動の選定を行うことです。

そして、その選定の権限は、物理的干渉を行うまでを含めています」

「何だって?!」

水野が、驚きの声を上げた。

「『予言システム』が行動まで起こしている、というのですか?

予言の内容を人間に伝えることなく……人間の判断を得ずに……」

「ヒトの行動は、常に時間の流れの中にあります。

ならば、流れを管理することによって、ヒトの判断に(みちび)きを与えることが可能ということになります。

それが、物理的干渉です」

「………」

水野は、しばし言葉を失っていた。

有利香は、構わず説明を続ける。

「ルが求めている理想的な未来には、『予言システム』の性能面や稼働する期間といった想定が、当然に含まれています。そして、その達成のために、必要な資源の選定を行うことを重要視しています」

「その……資源…というのは……ヒトの存在も含まれているのですよね………」

水野は、(かす)れた声で、何かに(おび)えているように震えながら、有利香に(たず)ねた。

「人的資源、物的資源、全てを()しています」

有利香は、明確に言い切った。

「第三者による妨害行為で、理想的未来の達成に必要な資源が損なわれ、達成困難な状況に(おちい)(おそれ)があります。

特に重要人物(キーパーソン)の維持は、最優先事項と言えるでしょう」

「………」

水野は、再び沈黙したが、しばしの時を()て、一言だけ、こう(つぶや)いた。

「……それが……『裁定者』の存在に繋がるのですね………」


* * *


「あの(ぞく)は」

と、パーヴェル(Pavel)シュトキン(Syutkin)は、(デュアン) 深緑(シェンリュウ)によって激しく破壊され、瓦礫(がれき)と化した治療室の出入口あたりに目を向けながら、言った。

「『固体弾』は、使用する『権限者』の『意志』によって威力が強弱し、相当な破壊力が出せるとしても、キミには通用しないことを()んでいたようだな」

「何の目的があったんやろな?」

段は、舞い上がって身体に付着した(ほこり)を払いながら訊ねた。

「キミを復活させることと、キミの力を見届けるためだろう。

その成果を持ち帰らせてしまった。

だとすると、実は彼らがキミの味方である可能性も(いな)めないな」

「ウチの好きなタイプやない」

一言(ひとこと)で、段は一蹴(いっしょう)した。

「でも、敵味方で区別するなら、ウチが縛られたままで、ウチのことを調べようとしてたあんたらも、ウチの味方やないな」

段は、キリリとした目つきで、パーヴェルを見つめた。

サロモン(Salomon)ハーシュ(Hersh)がバツが悪そうに、そわそわした。

「サロモンはん」

段に呼ばれ、サロモンの背筋が伸びた。

「あんたを責めてるわけやないよ。

あんたは、優しいヒトや。

ウチには、ようわかる。

きっと、あんたらは命令に従っただけなんやろな。

命令には、ウチの解放ゆうのは無かったんやと思う。

深藍(シェンラン)からウチの印象聞いとったら、ウチのことを警戒するのも、しゃあないわ」

「あの……これから、どうなさいます?」

長門(ながと) 暁海(あけみ)がおそるおそる段に(たず)ねる。

「おっしゃる通り、段さんが拘束された状態での調査を指示されていました。

段さんが目を覚ましてしまう展開は、全然想定していなかったのは事実です。

でも、こうして、段さんが目覚めてくれたんです。指示にはありませんが、私たちの社長に会ってみませんか?」

「親切で言ってくれてるんやろうから、ありがたいんやけど、あんたらのところには行けれんな」

段は、きっぱりと(ことわ)った。

「なぜです?」

「あんたらのボスは、羽蕗(はぶき) 梨菜(りな)なんやろ。

だったら、ウチにとって宿敵や。

会うわけにはいかんのや」

「宿敵って……羽蕗さんは、そんな(ふう)には……」

「羽蕗 梨菜が、ウチのことをどう思っとるかは知らん。

ただ、ウチには宿敵でしかないんや。

それに、深藍が……ウチが一緒におるのは、きっとイヤがると思う」

「それは違うぞ。梨菜さんも、深藍さんも、キミのことを心配して………」

パーヴェルが間に入ろうとすると、段が構えを取って警戒した。

「力ずくで連れていくつもりでも、ウチは絶対に応じんで」

「いや……ボクはそんなつもりで………」

パーヴェルは両手のひらを見せて、その気は無いことをアピールした。

「……ウチのことは心配せんでエエよ。

ウチは、何とでもできるから………」

段は、背中を見せ、壊れた出入口の方へ向かった。

「段さん、待って」

と、サロモンが言った。

段の足が止まった。

「……かんにんな……サロモンはん……やさしゅうしてくれて…おおきに……」

段は、再び前進した。

その後に暁海が声をかけたが、もう振り返らなかった。


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