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レモンティーン  作者: 守山みかん


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136/139

百三十六

「あなた方が拘束している新谷(しんたに) (こう)が、真体(イデア)ではないことは承知されていると思いますが」

有利香の問いに、水野はため息を交えながら「ええ」と答えた。

「WGBGに出場していた新谷は、『疑似体(インダストリアル)』であることは判明しております。

彼は、彼の指示者が彼自身の『真体』であること、そして、その背景にあなたがいることを示しました」

「………」

有利香は、無言で、静かに両目を閉じた。

しばし、沈黙の気流が2人を包むが、水野の方が断ち切った。

「この沈黙の持つ意味は、呵責(かしゃく)ですか?

あなたは、ボクからのお願いを聞き入れて、ここへ来てくれて、全てを話すと言ってくれました。

それは、あなた自身が相当の覚悟を持って行動されているものと解釈し、ボクはあなたに敬意と謝意を(ひょう)しています。

今は、私がした『予言』に関する質問の回答を進めて下さい」

「承知しました……」

有利香は、ゆっくりと両目を開き、水野を見つめた。

「私が、あなたに全てを話すと決断したことは、決して『予言』の行く末にある『特定未来』の損得に基づいた判断では無いことを誓約します。

これは、私の判断であり、このことが『特定未来』にどのような影響を与えるのかは、計り知れないことです」

「もちろん、それは信じていますよ」

水野は、軽快に言った。

「私が新谷に出した指示は、『予言』を仄香から乖離(かいり)すること、のみです。

手段については、特段の指示はしておりません。

そして、これは、この要素が、もっとも重要な意味を持っていたのかもしれませんが、新谷が、この任務について、悪意を抱いて(のぞ)むであろうことを、私は承知していました」

未必(みひつ)の故意、ですか?」

そこで、水野が(たず)ねる。

「そのようにおっしゃられても、否定できない事実です。

試作段階の『LARGEシステム』が、その時点で未だ稼働できていない状況で、新谷が浦崎刑事を殺害するかどうかはわかりませんでしたが、その可能性については、私自身の能力で、『予測』できていました」

有利香は口を止め、水野の様子を(うかが)った。

水野は、落ち着いた様子で、少しだけ笑みを見せていた。

「正直に話していただきましたね。その勇気に感謝いたします。どうぞ、続けて下さい」

有利香は、細く息を吐き、安堵(あんど)の表情を示した。


* * *


「段さん……バトルスーツ……用意してあるんです………」

長門(ながと) 暁海(あけみ)は、全裸でいる(デュアン) 深緑(シェンリュウ)のそばに駆け寄ろうとするが、パーヴェル(Pavel)シュトキン(Syutkin)がそれを制した。

「今、彼女に近寄るのは危険だ。

かなりの高熱で覆われ、(はた)で見ているボクでも、『防御(バリア)』を(ほどこ)さなければ、大火傷(やけど)していると思う」

「裸でいる乙女(おとめ)を放置できますか!」

暁海は怒鳴(どな)り声を上げ、パーヴェルはその勢いに(すく)み上がった。

「あけみはん、ウチに何か用か?」

段は、キョトンとした顔で、暁海を見た。

「すぐに、これを着て下さい」

暁海が強引に段に近寄ろうとするので、パーヴェルは『防御(バリア)』の焦点を暁海に移した。

「気いつこうてもろて、おおきに、なんやけど、ウチらは全身で攻撃できるこれが最強なんや」

「このスーツは、あらゆるエネルギー耐性が優れてて、『攻撃側面(アグレッシブ)』に対する支援能力も備えています」

「バカね、あんたたち。銃口を向けられてる立場のくせに、私がオメオメと許すと思ってるの?」

リーダー格の(ぞく)甲高(かんだか)い声を上げる。

段は、目を細めて、賊を(にら)む。

「なら、撃ってきたらエエがな。

1発しか撃てん弾を、はよ撃ちや」

段の挑発に対して、賊は全身を震わせた。

自棄(やけ)っぱちの攻撃をパーヴェルが警戒し、バリアの範囲をできるだけ広くした。

暁海も、再度『超小型保護具(ナノプロテクター)』を設定し、自らとサロモンの防御に加担した。

段は、表情を緩め、ゆっくりした動作で暁海から受け取ったバトルスーツを着用した。

「ぴったりやな。あんたら、よくウチのサイズがわかったな」

深藍(シェンラン)さんのサイズで作ってみたんです。ぴったりで良かった」

暁海が無邪気にはしゃぐ。

段は、唇をキュッと結んだ。

「深藍………そうか……深藍は、あんたらんとこにおるんやな………」

「ちょっと! アンタたち、私を無視しないでよ」

賊が(わめ)くと、段の視線が再び賊に向いた。

「やかましな……はよ撃ってこんかい!」

段は、(すご)みを効かせて怒鳴った。

賊は、悲鳴を上げながら、『固体弾』を段に向けて発射した。

段の全身の輝きが大きく増し、右手の人差し指と中指を立てて構えた。

『固体弾』の行き先は、まさに段が立てた二本指の中心にあった。

衝突と共に、『固体弾』は激しい爆発音を上げながら破裂し、その破片が『流れ弾』となり、八方に飛び散った。

パーヴェルは、その『流れ弾』の動きを目で追い、陣営に飛んできた弾を『防御(バリア)』で防いだ。

段は、「ちっ」と舌を鳴らし、賊が発砲した方角に向けて、『光弾』を放った。

金色に燃え上がった『光弾』は、流星のように閃光(せんこう)を発しながら、段の前方に超高速で突き進んだが、部屋の壁に衝突し、大きな範囲で爆発した。

そこで飛散した破片なども、パーヴェルが完璧に防御し、サロモンや暁海たちは(かす)り傷すら負わなかった。

「逃げられたか」

段が悔しそうに(つぶや)き、『観音化』を()いた。

「最初から逃げるつもりだったらしいな」

パーヴェルが段に近づいて言った。

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