百三十五
「仄香の夫の美園 東の友人で、ラズベリースケール社の最高経営責任者であるウィリアム・ゴースワンの協力を得て、IMEAが結成されました。
それまで、MEに関する研究開発は、5社が、それぞれ独立して行っていたのですが、協力関係を結ぶことによって、研究成果、技術情報を共有、市場展開する領域を適正配分することによる相乗効果が期待されました。
日本の岡産業株式会社は、技術面で一歩抜き出ていたのですが、消極的な条件承諾の姿勢を見せたこと、いわば経済的報酬を譲歩したことで、他国メンバーからの同意は、円滑に得られました。
岡産業株式会社は、メンバーの中で最弱な規模となってしまいましたが、技術情報を提供することにより、これは市場展開を委託したという展開に繋がり、つまりそれは、流通分野に関する投資を節約できたという成果も得られました。
それに対して、莫大な費用を投じて量産と流通体制を強いることになったメンバー会社は、当然に投資分を回収するべく積極的な営業戦略を展開することになります。
軍事分野、エネルギー分野、様々な需要に活用できる汎用性の高いME関連事業は、貪欲な経営者たちに極上のアメを与えたのです。
岡産業はといえば、国内の公的需要に対しての対価は他国ほどではありませんでした。
それでも、事業規模の拡大は鈍重ながらも進んでいきました。
市場展開を省力した分、『LARGEシステム』の開発に注力できたのです。
そうして、『LARGEシステム』の基礎が完成しました」
「口を挟んで申し訳ありませんが」
と、いきなり水野が咳払いを交えながら、割りこんできた。
「その話だと矛盾があります。
『予言』の内容を知ることのできない岡産業株式会社が、なぜ『LARGEシステム』を開発することができたのか……その点についてご説明をお願いします」
有利香は、観念したように小さなため息をついた。
「やはり、水野警視監は、お気づきのようですね」
「ボクにとって、忘れることのできない、とても大事な展開部分なんです」
有利香の問いかけに、水野は即座に返答した。
「ここで、新谷 紅が登場しますよね」
詰められた有利香は、こっくりと頷いた。
* * *
段 深緑は、身体を拘束している頑強な金具類を引き千切ろうと、全身を揺さぶってみせた。
金具類は、彼女の身体に食いこんだまま、緩むどころか、前後左右にずれる気配を見せようとすらしなかった。
段を注視していた賊のリーダーの口元が緩んだ。
「ボス……あれに今動かれるのは、我々にとってマズいのでは?」
リーダー格ではない方の賊が言った。
「あれを解放するのが、我々の役割よ。
目的を見失わないで」
リーダーは、説得する。
「それでは、我々がヤラれてしまいます。
今のうちに退却した方が………」
「あれが、完全に解放されるのを見届けるの。
それまで退却は認めない。
それとも、今、死んどく?」
「我々の目的は、我々の死にあるのですか?」
賊は、不服そうに言った。
リーダーは、笑みをくずさない。
「MEの流通量が十分ではない今なら、威力のある『固体弾』を撃てる私たちに分があるわ。
そのために備えてるんでしょ?」
「その『固体弾』を使えば、アレを討伐できると言うなら、今すぐにアレを始末したいです」
「あなた、危険な考えね。
やっぱり、今、死んどく?」
賊の回答が返る前に、リーダーは『固体弾』を賊の額に向けて発射していた。
激しい破裂音と共に、賊の上半身は、跡形もなく消滅した。
「仲間割れか……醜いな」
パーヴェルは、冷徹に言い放った。
賊のリーダーは、すかさず銃をパーヴェルの方へ向けた。
パーヴェルは、1ミリも動揺する様子を見せなかった。
「キミたちが盛り上がってる合間に、ボクの方は、少しだけ回復できた。
反撃態勢も整えている。
キミは、その『固体弾』を放てば、十数秒は次が撃てないと見ている」
「はったりは通用しないわよ」
賊のリーダーも動じていなかった。
「『固体弾』の威力は、あなたが想像するより、はるかに強力よ。
正面から受け止める気でいたなら、マトモじゃすまないわよ。
まあ、私の役割は、あなたたちの妨害をすることじゃないから。
残り1発の弾は、自分の身を守るために使うわ」
パーヴェルには、賊の言っている意味が理解できなかった。
「サロモンはん……」
そのとき、段の声が一同の耳に飛びこんだ。
一番、驚きを見せたのは、指名があったサロモン自身だった。
彼は、段の手を握りしめていた。
「どうして、ボクの名を?」
サロモンは訊ねた直後に、『権限者』に対して愚問であることに気づいた。
「そちらのたくましいヒトがパーヴェルはん、キレイな女のヒトはアケミはん」
そして、段の視線が賊のリーダーに向いた。
「あんたは、岡 大の分身やな」
「ふん」と、賊は鼻で笑った。
「ここで身分を明かされても、何の意味も持たないわ。
私は、あなたを自由にしてあげようと、わざわざ来てあげたのよ。
そんな私と敵対しようなんて、恩知らずも良いとこ……」
「サロモンはん、危険やから、ちょっと離れててな」
段は、賊の話など耳も貸さずに、サロモンと暁海を引き離すことに気遣った。
サロモンと暁海は、段から2メートルほど離れた。
たちまち、段の皮膚が黄金色に輝いた。
「これは……」
パーヴェルは、両目を大きく開いて、段の様子を見守った。
段が着ていた病衣は炎を上げ、瞬間に燃え尽きた。
手足を拘束していた金具が異常な熱気を上げ、全てが同時に弾けるように吹き飛んだ。
段は、ベッドからゆっくりと足を下ろした。
一糸纏わぬ全裸となったことなど、まるで気づきもしていないように、悠然と賊の前に立った。
「流通量が限られている中で、あれだけのエネルギー量が出せるとは……これが『観音化』……MEの濃度を限界まで高めているのか………」
強靭なパーヴェルでさえ、美しい輝きを放つ段の姿を前にして、狼狽を隠せなかった。




