第28話 前哨戦
ミヤビは外の喧騒で目が覚めた。実際にはゲーム内のアラームの機能で決まった時間に目が覚めるのだが5時に目が覚めた時には外が騒がしかったのだ。
「おはようレオン、ミヤビ。起きて早々この騒ぎだけどどうする?」
「…おはよう。」
「おはよう、集合にはまだ時間があるが急いだ方がいいか?とりあえず朝食を食べに降りるか。」
ベットを出ようとするとドアから視線を感じ見るとルイがドアから顔だけ出してジーと薄着一枚だけ着ている三人が視界に収まる様に見ている。トーテムポールのようにルナも一緒に見ているがルイのねっとりとした視線と違い真似してるだけのようだ。
「ルイ、朝食食うから降りるぞ。」
「分かりました。」
返事はするものの微動だにしないルイ。ルイの頭の中では腐の妄想が繰り広げられているのだろうがミヤビはため息だけ吐いてメニューから装備を変える。クラウスも視線に気付いたのか苦笑だけ浮かべて同じように装備を変え、レオンだけは理解してないようだがミヤビとクラウスが着替えたのを見て装備を変えた。残念そうに目を瞑ったがルイはすぐに降りていった。
食堂に入ると豪勢な朝食が既に人数分準備されており後は食べるだけの状態であった。
「スタンピードに向けて私達から微力ながら協力させていただきました。代金は結構です。皆様のご武運を祈っております。」
宿の従業員達が頭を下げる。貴族も泊まるだけあって緊急時のサービスもしっかりしているようだ。
「ありがとうございます、必ず殲滅してこの街を守ってみせます。」
「そうじゃ!それくらいの意気込みがなけりゃ戦なぞ出来ぬ!儂も料理に手を加えてやったのだ。やり遂げてみせよ!」
麗華は戦場に出ず砦で様子を見るそうだ。豪勢な朝食を食べて宿を出る。スタンピードなので今日も泊まることは確実であり更に報酬の事も考えると数日は足止めされるかもしれないので予約は入れておいた。
「後は全員無事帰るだけだ。」
皆頷くと足を進める。
外の喧騒は飛行型の魔物によるものである。飛行型だけあって鳥の魔物が多く鳥目で夜間の襲撃が少なかったが朝になって活発になったので衛兵と冒険者達は現在その対応に着手しているのだ。
「時間はあるから他の者を助けながら行くぞ。マリーは怪我人の治療に、ルイは撃ち落とせ。」
指示を出したミヤビは上空から襲って来る魔物を大斧の一振りで斬り捨てる。
「装備の性能、武器の調子を見るにも丁度良い、先ずは前哨戦ってことだな。」
ルイが矢で撃ち落とすと駆け出したクラウスが墜ちてきた魔物を斬り捨てる。ルナも飛行して一緒に魔物を地に落としている。
墜ちてきた魔物を全員で次々と倒していく。カリンが攻撃に参加し、スイは魔力温存の為魔法を使わず近接攻撃をしている。マリーは回復だけでなく鞭で攻撃と魔物の拘束もしている。
魔物の討伐は順調である。順調であるのだが、
「さっきからアタシ達ばかり襲われてない!?」
「やっぱりそう思うか。」
「なんとなく理由は分かりますけど。」
「ミヤビ、お前も理由に心当たりがあるだろう。」
「まぁ難しい事じゃないからな。」
「どういう事?」
「光る物を集める鳥の習性だよ。」
マリーが自身とレオンの装備も新調し、レオンはワインレッドの忍び装束のような格好でマリーは戦場に似つかわしくない赤いドレスを着ている。
漏れなく全員が赤系統の装備を身に付け目立っている。その中でミヤビの装備は至るところに金を使っており光沢が特に目立つ。
言ってしまえば狙われているのはミヤビ達ではなくミヤビなのである。
「疫病神か!」
「他を練り歩く必要がないんだから良いじゃねえか!」
「まぁ、そうね。ミヤビが先頭に立てば問題ないね。私達は巻き込まれない様に少し後ろに居ましょう。その方が早く片付くよ。」
「えっ、でも良いの?」
「ミヤビなら大丈夫。」
たった今もミヤビは襲ってきた三体の魔物を素早く二振りで切り捨てている。
「あれは心配するだけ無駄ですよ。俺達は遠い奴等を落として数を減らしましょう。」
そして戦闘しながら集合場所まで進んで行くのであった。
砦の上ではクリストファーとオボロが街中の被害を抑える為、状況の把握と指示を出していた。避難民の収容は昨日の時点で済ませていたので外に出ない限り人的被害はないだろうが燻り出す為に建物等を破壊されも困る。
なので衛兵達に巡回と討伐を頼んでいたのだが冒険者達が個別で魔物を狩っているようだ。それも踏まえて魔物が急襲する場所が転々としているのだが途中から一ヶ所に集まり出したのだ。
「街中の魔物が思ったより多かったが討伐は順調にいきそうですな。」
「理由が分からないが今の勢いなら少しすれば討伐が終わりそうだな。ここに近付いているし、その頭上にグリフォンが居ると言うことはミヤビの煌月の守であろう。あの者は騒ぎの中心に居ないと気が済まないのか?」
「とりあえず時間も近付いている事ですし冒険者達を集めましょうか。」
「既に大半の者達が集まっているが一応そうしてもらえるか?それにしても全員が赤系統の装備とは目立つパーティだな。」
見えてきたミヤビは昨日の一通り揃えてあった青を主体にした低レベルの装備ではなく赤を主体にした実用性もある華美な装備を着けている。
魔物に襲われているというのに斬り伏せては悠然と歩いているミヤビに付き従う様にパーティメンバーと冒険者達が歩いてくる。
「ふむ、何故他の冒険者達も一緒に連れているのかは分からないが、戦闘前にミヤビに挨拶でもしてくるか。クリス、砦の指揮は頼んだ。」
オボロはミヤビの姿を認めると砦を降りて行った。
魔物を切り捨ててきて集合場所の門が見える所まで来たミヤビであったが門の前には既に冒険者達が集まっていた。
「遅れてはないはずなんだがなぁ。」
小言を呟きつつも門に向かうと集まっていた冒険者達がミヤビを見ると道の開けてくれる。理由は分かっているのでそのまま門まで歩いて行く。
「おはようございますオボロさん。ワタシ達が時間に遅れている訳ではありませんよね?」
「気が早い者が多いだけだと言いたいところだが状況が状況だから落ち着いていられないのだろう。そう考えるとそなたの神経は図太いと言うことになるな。」
「しっかり休むのも必要なことですもの。それにここに来るまで街中の魔物狩りに貢献してますわ。」
「砦の上から見ていたぞ。やたらそなたを集中して襲っていたようだが?」
「それは聞かないでください。原因は分かっていますので。」
「その華美な装備の所為か?金の光沢が特に目立つからな。」
「分かっているのなら聞かないでください。」
「まぁ、素材は間違いなく昨日のより優れているな。赤桃山のスカーレットウルフにフレアゴートと紅炎石か、この辺りの魔物よりも強く良い素材だ。ワイバーン辺りなら釣り合うか。何にせよそれがそなたの本来の装備なのだな。」
「大斧に籠手と具足は改良ですがそれ以外は新調させられました。お陰で性能はすごく良くなってますね。」
「それは頼もしい。所で何故後ろの冒険者達はそなたに追従しているのだ?」
「それはワタシが聞きたいです。魔物を斬って歩いていたらいつの間にか後ろに付いてくる形になったのです。お陰で威圧感があったのか前にいた冒険者達が道を譲ってくださいましたよ。」
「愉快な事ではないか。」
「そんな事より此方がうちのクラウスです。ワタシが居ない間のリーダーです。」
「うちのリーダーが無茶を言ってすみません。クラウスです。ああ言ってますが俺はアタッカーの剣士ですので指示とかはミヤビの妹のルイちゃんにしていただけると助かります。」
「すみません、ミヤビの双子の妹のルイ・スメラギです。私は後衛のテイマーですので指示があれば受け付けますのでよろしくお願いいたします。」
「種族が違うのに双子とは守人は可笑しな者だな。だが、二人共よろしく頼む。」
更にカリンとスイの紹介を終えるとミヤビはオボロに現状を聞く。
「現在、砦から魔物の群れは視認出来ないが気配は感じられる。そう遠くない内に視認出来るようになるだろう。冒険者達はそなたのお陰で八割方集まっているし、衛兵800人は門の外で昨日の予定通りの陣形を整えている。そちらは後そなたが先頭に加われば完了する。」
「分かりました。ではワタシはそちらに向かいましょう。」
「気を付けろよ。」
「分かっています。そちらは任せましたよ。ルイ、状況判断と指示は任せます。」
「分かりました。ご武運を。」
「マリー、レオン。折角ですからここで戦闘の経験を積みなさい。レベルが上がれば出来る事が増えますよ。」
「言われなくても分かっていますわ。」
「…出来るだけの事はやってみる。」
「カリン、皆の守りを頼みます。」
「任せて、誰一人死なせないから。」
「スイは…………臨機応変に対応してください。」
「今の間は何?」
皆に一言淀みなく言葉を送っていたのにスイで詰まってしまった。スイを見ると相変わらず表情が変わらないのに怒気を纏っているように見える。
「いえ、今日の戦闘に色々予測は立てましたけど他に言葉が見付かりませんね。」
最初に交戦する前なら敵集団に範囲魔法を使えば良いが乱戦になると範囲魔法に限らず他の魔法でも避けられたりすれば他の冒険者を巻き込むフレンドリーファイアをしてしまう。
なので魔法自体を控えるか使うにしても発動の始点が敵の上下である魔法を中心にしないといけない。そして残念なことに現在スイの使えるそのタイプの魔法は範囲魔法の【フレイム】しかない。
「槍でだって十分戦える。」
「まぁ、そうですがこの戦いの鍵は連携です。スイの範囲魔法を使う為に全員で効率よく一ヶ所に魔物を誘導出来るかになると思います。特にルイは他の戦況とパーティ全体を見ないといけないので負担が掛かりますがスイがそれをフォローしてください。」
「分かった。」
口では言うもスイの表情は先ほどと変わらない。
「言うなればワタシと同じ役割ですよ。必要に応じて攻撃手段を変えられるのはパーティではワタシとスイしか居ない重要な役割です。ルイの矢だけではどうにも出来ない状況を活かすも殺すもアナタの判断と行動次第、重要な役割だからこそ頼んでいるのですよ。」
「分かった。」
信頼しているからこそ任される役割である事を強調して言うと今度は心なしか嬉しそうに返事が返ってくる。
「ではワタシは先に行ってきます。」
スイの激励も済んだのでミヤビは銀の髪と尻尾を靡かせて衛兵達の待つ門の外に向かった。
冒険者達の編成も済み、門の外では1300人程が部隊毎に整然と並んでいる。オボロは冒険者部隊の先頭に立ちクリストファーは砦の上から部隊を見下ろす。
「静まれ~!」
クリストファーの一声で喧騒を落ち着かせると言葉を続ける。
「これよりダンブル防衛戦を開始する!この度の砦の指揮は私が野戦の指揮はオボロ殿が引き受ける!敵が近付きつつあるなか情報では敵の数は六千程で此方との兵数は四倍程しかない、スタンピードにしては小規模であろう!であれば我らの勝利は揺るがないものである!だが被害が出ない訳ではない。自身が、隣の者が、明日には居なくなるやも知れん。なればこそ決して戦場で手を抜くな!油断するな!油断一つで命が左右されるのが戦場だ!魔物共は決して此方を待ってはくれぬ!敵を倒し、仲間を守れ!そして皆で共に帰ろうぞ!」
「「「「「うぉおぉおおおおおおおお!!!!!」」」」」
クリストファーの演説で衛兵、冒険者達の士気が上がる。
「それでは陣形を整え進め~!」
そして砦から見えつつある。魔物の集団に向けて兵達は歩を進めていった。




