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第29話 開戦

 兵達は外壁から2km離れた位置で陣形を保ったまま待機している。オボロが言うには昨日から周囲の農村には魔物避けのお香を配り、尚且つダンブルに向かうように魔物寄せのお香を道中に撒いている。絶対ではないがある程度ダンブルに誘導することが出来る見込みだ。

 だがあまりに街から離れて迎撃すると周囲の村に魔物達が逃げてしまう恐れがあるのでこの位置で魔物達を迎え撃つようだ。

「それにしても妙だ。」

「何がですか?」

 オボロの呟きにミヤビが疑問を浮かべる。

「今回のスタンピード、魔物の動きが遅すぎるのだ。遺跡から出てきているとは言え、足の速い魔物なら昨日の内にダンブルに着いていてもおかしくないのだが………」

「魔物の襲撃は今朝、しかも飛行するタイプの魔物のみですか。魔物全体を統率或いは抑する者がいるのかもしれませんね。そうするとワタシ達には策と連携があるとは言え、数の不利を覆すのが難しいかもしれません。」

 只でさえ4倍近くの数の差があるのだ。烏合の衆であるなら未だしろそれを指揮する者が居れば、能力が大差ない限り確実に負ける事だろう。

「とは言うものの敵を目の前にして引き返すことも出来まい。」

 視界には既に魔物が近付く土煙が見えている。少しするとダイアウルフの群れが先頭を駆けている。

「波状攻撃にしては先頭と後続の距離が空きすぎているので敵の指揮官はそれほど知能がある訳ではなさそうですね。」

「では先ず我々で先手を打ちましょう!弓隊、魔術隊準備を!重装隊も衝突に備えよ!」

 衛兵の一番隊の隊長ディランの指示で兵達は素早く一斉に構える。その動きに練度の高さが伺える。

「魔術隊は後続が射程範囲に入るまで待機、弓隊は先頭集団を狙え!」

「ではワタシは弓隊の一斉掃射と同時に前に出ます。当たりそうな魔法は近くの魔物を盾にして防ぎますので後続が射程に入ったら迷わず撃ってください。」

「分かりました。」

「私も後方で最後の仕上げをするとしようか。」

「何をするんですか?」

「今は多少統率しているようだが魔物の統率を崩すには効果覿面の道具で現在ダンブルの門の所にも撒いている魔物寄せの香だ。これを使って私自身を餌に後続の魔物をダンブル迄引っ張る。」

 オボロが腰に着けた麻袋から小さな壺を取り出す。

「随分甘い香りがしますね。」

 壺には蓋が付いているが穴があり匂いが外に漏れている。

「中には調合した薬草が入っていて、燻すことで効果が出るようになっている。効果範囲は精々100mくらいだがこの壺一つで3時間とそれなりに持続時間が長く、作るのに多少高価な材料を使うが手間は掛からない。」

 魔物寄せの香より効果範囲が広い物もあるがその性質上戦争に利用される危険性があり、製造、使用は禁忌とされている。

「ではこれはワタシが貰っても良いですか?」

 ヒョイっとオボロの掌から壺を取り上げるとミヤビは胸元に抱えて上目遣いで訊ねる。

「分かった。」

 端から見ても頼み方があざとくオボロはため息混じりに言って腰の麻袋をミヤビに渡すと別の壺が入った麻袋を腰に付け直した。

「ありがとうございます!」

「ああ、だがくれぐれも気を付けてくれ。」

 満面の笑みでお礼を言うミヤビにきちんと釘を刺してからオボロは後方に下がっていく。

「ではディランさん、ワタシ達も行きましょう。」

「はっ!弓隊構え!魔術隊、後続に備え詠唱を開始!」

 ディランの指示で衛兵達が一斉に弓を引く。

 先頭を走る魔物達が射程範囲に入る所まで来ているのだ。その間にもミヤビは壺の入った麻袋を腰に付けておく。

「ではミヤビ様御武運を。」

「はい、行って参ります。」

「弓隊放て!」

 そして矢が放たれると同時にミヤビは駆け出した。

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