第3話 ぼっちじゃないから!
五歳の誕生日。
待ちに待ったスーとラーに会えた、記念すべき日。楽しい一日になるはずだったのに。
神殿で置き去りにされ、馬車もなく、あたしはスーとラーを肩に載せてとぼとぼと歩いていた。五歳の足では家まで遠い。
「……やっと着いたぁ」
神殿から屋敷まで、大人ならそれほど苦労しない距離なのかもしれない。でも、五歳児の小さな足では話が違う。
しかも、迎えの馬車もない。とぼとぼ歩いているうちに日が暮れてしまったのだ。
……五歳児に何という仕打ち!
窓の外はすっかり暗くなり、屋敷のあちこちに明かりが灯り始めている。
いつもなら、とっくに夕食を運んできてくれる時間なのに、今日は侍女が一度も部屋に来ていない。
いや、正確には、神殿から帰ってきてから誰も来ていないのだ。
おかしい。すんごくおかしい。
あたしは大きなベッドに腰掛け、足元でぽよんぽよんと跳ねている二匹のスライムを見下ろした。
「ねえ、スー、ラー。これって、もしかして放置されてる?」
ぽよん。
ぽよん。
……うん。かわいい。
でも、返事がわからない。
スーとラーが来てくれたことは嬉しいけれど、だからといってお腹が空かなくなるわけではないし。
むしろ、今日は朝から神殿へ行って、儀式を受けて、祖父たちの冷たい視線を浴びて……と、なかなか忙しい一日だったのだ。
お腹が空いて当然である。
「それにしても、お祖父様、相当怒ってたよねぇ」
スライムを授かっただけで、あそこまで不機嫌になるものなの? スライムの何が悪いのかな?
確かに、ヴェルディア公爵家では空を飛べる大きな守護霊獣が好まれるらしい。でも、守護霊獣は自分で選べるものではないのだから、あたしに当たっても困る。
そもそも、スーとラーは何にでも変身できるのだ。空を飛ぶことだって、きっとできるはず。
……たぶん。
最高神様にお願いした能力が、きちんと備わっていればの話だけれど。
「でもさぁ、いくら気に入らないからって、五歳の子供に夕食を出さないのはどうなの?」
思わず独り言が漏れた。
前世では、家族の都合に振り回されて散々苦労した。今世ではもう少し平穏に暮らせると思っていたのに、どうやらそう簡単にはいかないらしい。
もっとも、いつまでも文句を言っていたところで、お腹は膨れない。
「このままご飯をもらえないなら、自分で確保しなくちゃね。厨房に行けば食材くらいあるかなぁ?」
そう呟いた瞬間だった。
足元にいたスーとラーが、突然ぽうっと光り始めた。
「……え?」
二匹の身体がゆっくりと伸び、形を変えていく。
小さなスライムだったはずのスーは、黒髪の整った少年へ。ラーは、柔らかな表情をした可愛らしい少女へと姿を変えた。めっちゃ美少年と美少女だ~。
どちらも、きちんとした使用人の服を身につけている。
「マナリア。食事のことなら、僕たちに任せて」
少年が優しく微笑んだ。
少女もその隣で、にっこりと笑う。
「ラーがおいしいご飯を作ってあげるね!」
「…………」
あたしは二人を見上げ……そして、思いきり目をこすった。
「しゃ、喋ったあああっ!?」
いや、待って。
人間に変身できるようにお願いしたのは、あたしだ。人間の姿になれば会話もできるようにしてほしいと、最高神様に頼んでいたことも思い出した。
でも、実際に目の前で変身されると、想像以上に驚くものなのね!
「スー!? ラー!? 本当に二人なの!?」
「うん。僕がスーだよ」
「ラーはラー! やっとマナリアとお話しできたね!」
ラーが嬉しそうに笑う。もうやだ、かわいい。スライムの姿もかわいかったけれど、人間の姿もかわいいじゃない! もう、推すしかない!
「すごい! 本当に変身できるんだね!」
「うん。姿を変えるのは僕たちの得意分野なんだ」
「じゃあ、さっそくご飯を作ろうよ!」
ラーがそう言うと、スーが部屋の中を見回した。
「食材は厨房にあると思う。僕たちには無限収納があるから、持ち運びも問題ないよ」
「そうだった! 二人にも無限収納があるんだよね!」
「うん。収納したものは時間が止まるから、食材も傷まないんだ」
「最高じゃない!」
何という便利さだろう。前世でスーパーの値引きシールを追いかけていたあたしからすれば、食材が腐らない収納なんて夢のような能力である。
ただし、ひとつ問題がある。
「厨房の食材、勝手にもらって大丈夫かな?」
「少しずつなら、気づかれずに持ってこられると思うよ」
スーが真面目な顔で答えた。
……いや、そういう問題ではない気もする。
でも、夕食を出してもらえない以上、ほかにどうしようもない。
「じゃあ、誰もいない時間にお願い。ただし、取りすぎちゃ駄目だからね」
「わかった。任せて」
「行ってくるね!」
二人は笑顔で頷くと、再び小さなスライムの姿になった。そして、扉の隙間からするりと廊下へ出ていく。
「……便利すぎる」
あたしは思わず呟いた。
何でもできるようにお願いしておいて、本当によかった。
◇◇◇◇
しばらくして、スーとラーが戻ってきた。
再び人間の姿になった二人は、あたしの前に次々と食材を取り出していく。
野菜、肉、卵、パン、小麦粉、果物。さらに、見たことのない食材まで並び始めた。
「ちょ、ちょっと待って! こんなに!?」
「厨房には、まだたくさん残っていたよ」
「少しずつ集めてきたんだ!」
ラーが誇らしげに胸を張る。
確かに、一種類ずつなら少量なのかもしれない。でも、種類が多すぎる!
「……まあ、いっか」
食べ物があるというのは、それだけで安心できるものだ。問題は、どうやって料理するかである。
「ラー、料理ってできるの?」
「うん! 作り方は知ってるよ!」
「じゃあ、お願いしてもいい?」
「もちろん!」
ラーが笑顔で答えると、スーが一歩前に出た。
「それじゃあ、僕がキッチンになるね」
「……はい?」
次の瞬間、スーの身体がぐにゃりと形を変えた。床の上に広がったかと思うと、みるみるうちに調理台と流し台、そして立派なかまどのような設備が現れる。
「…………」
あたしはしばらく言葉を失った。
「……スーって、キッチンにもなれるの?」
「うん。スーのキッチンはもっと大きくすることもできるよ」
「いや、これで十分! 十分だから!」
何ということだろう。まさか、守護霊獣が調理設備になる日が来るとは。……いや、そうなるようにお願いしたのはあたしなんだけど。
ラーはさっそく野菜を切り始めた。手際はなかなかよく、あっという間に鍋の中が色とりどりの野菜でいっぱいになる。どこで料理を覚えたのだろう?
水を加え、火を通し、しばらく煮込む。やがて、部屋の中に温かな湯気が立ち上った。
「できたよ!」
「わあ! おいしそう!」
ラーが差し出してくれた器を受け取り、あたしはスプーンでひと口すくった。ふうふうと息を吹きかけて、口に運ぶと……
「…………」
うん。
野菜だ。ものすごく、野菜の味がする。それ以上でも、それ以下でもない。
「……ラー?」
「なあに?」
「これ、味つけした?」
「味つけとは?」
ラーが不思議そうに首を傾げた。
あ。
嫌な予感がする。
「塩とか、胡椒とか、何か入れた?」
「ううん。野菜と水だけだよ!」
「……なるほど」
つまり、野菜を切って水で煮れば料理だと思っていたらしい。間違ってはいない。間違ってはいないんだけれど!
「ラー、料理ってどういうものだと思ってる?」
「人間が食べやすいように食べられるものを作ること!」
「……うん。間違ってない!」
何だろう。この、ものすごく正しいのに、ものすごく何かが足りない感じ。あたしは、もう一度スープを口に運んだ。
……野菜が元気に自己主張している。
「ラー。ごめんね。これ、あんまりおいしくないかも」
「そうなの?」
ラーは不思議そうな顔で、自分でもスープをひと口飲んでみた。すると、少し驚いたように目を丸くした。
「……本当だ。なんだか物足りないね」
「わかる?」
「うん。スライムの姿だと食べ物の味はあまり気にならないけど、人間になると味がちゃんとわかるのかもしれない」
「へええ! そうなんだ!」
つまり、スライムのときは何でも食べられるけれど、人間になるとおいしいものがわかるということらしい。
スライムの特性?性質?はよくわからないけれど、人間に変身することで解決するなら話は早い。
「料理には調味料が必要なんだよ。塩とか、香辛料とか」
「そっか! じゃあ、取ってくるね!」
ラーはそう言うと、あっという間にスライムへ戻り、扉の下から出ていった。
……行動が早い。
しばらくして戻ってきたラーは、今度は小さな容器をいくつも取り出した。塩、香辛料、油、そして何に使うのかわからない粉まで。
「いろいろ持ってきたよ!」
「ありがとう!」
見たこともない粉などは後で味見してみるとして……
あたしはさっそくスープに塩を加え、香辛料を少しだけ入れてみる。そして、もう一度味見。
「……おいしい!」
日本と同じ調味料があってよかったぁ。味のイメージがついているのとついていないのとでは大違いだもの。さっきまでの味気ないスープが、ちゃんとした料理になった!ラーも味見をして、嬉しそうに頷いた。
「すごい! 調味料って大事なんだね!」
「そうなの! 料理って、味つけが大切なんだよ!」
こうして、あたしたち三人の初めての夕食は、無事に完成した。自分が要望したこととはいえ、とんでもなく不思議な生き物になってしまった。
そして、スライム達は調味料で味付けをすることを覚えた(と思う)。
◇◇◇◇
翌朝。
目を覚ましたあたしは、いつものように侍女が来るのを待っていた。ところが、誰も来ない。朝食も運ばれてこない。着替えを手伝ってくれる人もいない。
「……あれ?」
昨日だけではなかったらしい。仕方がないので、ラーに手伝ってもらって着替えを済ませた。
スーとラーがいてくれるおかげで、生活に困ることはなさそうだけれど、それとこれとは話が別である。
五歳の子供を完全放置って、どうなのよ。
昼近くになって、ようやく扉の外で物音がした。慌てて確認すると、廊下に小さな皿が置かれている。
その上には、まあるいパンが一個。
「…………」
あたしはパンを見つめた。
そして、もう一度見つめた。
「……これ、お昼ご飯?」
スーとラーも、隣からパンを覗き込んでいる。
「そうみたいだね」
「……五歳児のお昼ご飯が、パン一個?」
「うん、まるいね」
いや、パンは好きだけれど。形とかそういう問題じゃない。昨日までの食事と比べても、あまりに違いすぎる。
「どうやら、本格的に嫌われちゃったみたいねぇ」
あたしは「はぁ~~~」と長ーいため息をついた。
スーとラーを授かっただけで、ここまで扱いが変わるなんて。
でも、理由がわからないままでは気持ちが悪い。
「ねえ、二人とも。屋敷の人たちが何を話しているのか、調べてもらえる?」
「わかった。僕が屋敷の様子を見てくるよ」
「ラーも行く!」
スーとラーは、再び小さな姿になって部屋を出ていった。
◇◇◇◇
二人が戻ってきたのは、しばらくしてからだった。
あたしは部屋の中で、ラーが用意してくれた軽い食事を済ませ、魔法基礎書を読んでいた。侍女も部屋に来なくなったので読み放題なのだ。物事は良いように考えた者勝ちである。
「マナリア、いくつかわかったことがあるよ」
人間の姿に戻ったスーが、真剣な表情で話し始めた。
まず、祖父のヴァルディスは、守護霊獣の中でも特に空を飛べる大型の生物を高く評価しているらしい。
空から敵の様子を探り、必要なら攻撃する。人を乗せて移動できれば、さらに便利。そうした能力こそが、公爵家にふさわしい守護霊獣の条件なのだという。
「……なるほどねぇ」
確かに、戦争などで敵を攻撃するなら役立つのかもしれない。でも、守護霊獣って、争いごとの道具じゃないと思うんだけど。
「それから、火魔法をすごく重視しているみたいだね」
「火魔法?」
「うん。攻撃力が高くて、戦闘に向いているからだって」
祖父にとっては、何より戦う力が大切らしい。
さらに、祖母も母も祖父の考えに従っていて、スライムを授かったあたしのことを、すっかり失望の対象として見ているようだった。
「……そっかぁ」
あたしはベッドに腰掛け、足をぶらぶらさせた。悲しくないと言えば嘘になる。前世では家族に冷たくされ、今世でもまた同じようなことが起きているのだから。
でも、だからといって、あたしが悪いわけではない。
スーとラーは、最高神様が授けてくれた大切な守護霊獣だ。それに、あたしは二人のことが大好きだし、祖父がどう思おうと、その気持ちは変わらない。
「ねえ、スー、ラー」
「なに?」
「どうしたの?」
「もし、この家にいられなくなったら、二人は一緒に来てくれる?」
二人は顔を見合わせ、そして、ほとんど同時に答えた。
「もちろんだよ」
「どこまでも一緒に行くよ!」
二人が一緒なら家を出て生きていけるかも?
「ありがとう!」
うん。
それなら、何とかなる気がする。
いや、何とかするのよ。
◇◇◇◇
そうと決まれば、準備を始めよう。
今すぐ家を出るつもりはないけれど、いつ何が起きても困らないようにしておくことは大切だ。
まずは食料。
スーとラーに頼んで、厨房から少しずつ食材を集めてもらう。スライムの無限収納の中では時間が止まるので、保存の心配はいらない。
次は、お金になりそうなもの。
魔法基礎書には、ポーションの作り方も載っている。材料を集めておけば、いざというときに作って売ることができるかもしれない。
もっとも、この世界でポーションがいくらで売れるのかは知らない。そもそも、五歳の子供が売ってもいいものなのだろうか。
……まあ、そのあたりは後で考えよう。
それから、地図。
公爵家の領地がどこにあって、近くにどんな町があるのか。どちらへ向かえば安全なのか。何も知らずに飛び出すのは、さすがに無謀だと思う。
「スー、地図って手に入るかな?」
「屋敷の中を探してみるよ」
「お願い!」
そして、何より重要なのが住む場所である。
「二人とも、家にも変身できるんだよね?」
「うん。できるよ」
「じゃあ、日本の家を作ってみたい!」
「ニホン?」
ラーが首を傾げた。そうか。二人が日本を知らないのは当然よね。
あたしは前世で暮らしていた家を思い浮かべながら、説明を始めた。
「まず、玄関があってね。靴を脱いで上がるの。それから、お風呂とトイレが別々で、キッチンには流し台と調理台があって……」
説明しているうちに、どんどん楽しくなってきた。スーとラーは真剣に聞いてくれるけれど、わからないことも多いらしい。日本のことを知らないのは当然だとしても、二人はこの世界のことは知っているということでいいのかな?とりあえず、自分が住みたいおうちにしちゃえばいっか。
「マナリア。靴を脱ぐなら、家の中の床はあまり汚れないってこと?」
「そうそう! だから床に座ったりもできるんだよ」
「なるほど。じゃあ、玄関には靴を置く場所が必要だね」
「そうなの!」
ラーも興味深そうに頷いている。
「お風呂って、身体を洗うための場所なの?」
「そう! でも、身体を洗うだけじゃなくて、お湯にゆっくり浸かるのが最高なの!」
「お湯に浸かるんだ……」
「そうなの! 疲れが取れるし、すっごく気持ちいいんだから! あっ、そういえばお湯はどうやって出そうかしら?」
「僕たちも魔法が使えるから温かい水を出せばいいんだよね?」
「何て素晴らしいの! 君たち最高!!」
前世では、仕事で疲れて帰ってきたとき、お風呂に入る時間が数少ない楽しみだった。今度の人生では、好きなときにお風呂に入れるようにしたい。そういえば、料理をした時に普通にかまどから火が出ていたわね。
そんな話をしているうちに、スーが小さく頷いた。
「じゃあ、一度、形にしてみようか」
「えっ、今!?」
「うん。でも、この部屋じゃ大きな家は作れないから、まずは模型にしてみよう」
「模型! いいね!」
スーの身体が光り、机の上に小さな家が現れた。
玄関、居間、寝室、台所。
あたしが説明したものが、少しずつ形になっていく。
「わああっ! すごい!」
ただし、最初から完璧とはいかなかった。
お風呂の浴槽がなぜか台所にあったり、トイレの扉が外側からしか開かなかったり。
「スー! これじゃお風呂に入りながら料理することになっちゃう!」
「……あ、本当だ。直すね」
「あと、トイレの扉は中からも開けられないと困るよ!」
「わかった!」
ラーは隣で楽しそうに笑っている。あたしも、つられて笑ってしまった。
何だか、家を追い出されるかもしれないという話をしていたはずなのに、いつの間にか理想の家づくりで盛り上がっている。
でも、これでいいのだと思う。
暗いことばかり考えていても、楽しくないもの。
それにしても、こんなときにパソコンがあって、CADソフトが使えたらどんなに便利だっただろう。
頭の中には理想の間取りができあがっているのに、それを言葉だけで説明するのは難しい。だったら絵に描けばいいじゃない! と思って紙に描いてみたのだけれど……。
「……何これ?」
自分で描いた間取り図を見下ろして、思わず呟いてしまった。
部屋の大きさはバラバラ。廊下は途中で行き止まりになっているし、なぜかトイレにたどり着くには寝室を通らなければならない。
しかも、どう考えても家の外側より内側の方が広い。
……あれ? これって異世界の魔法建築?
いやいや、単なるあたしの画力の問題である。
「マナリア、この部屋は何に使うの?」
スーが図面の一角を指さした。
「そこはお風呂!」
「でも、さっきは台所って言ってなかった?」
「……間違えたの!」
ラーが横から図面を覗き込む。
「ねえ、マナリア。これは何?」
「ベッドだよ」
「何かの台かと思った」
「ベッド!あそこにあるベッドと一緒!」
「……なるほど?」
画力がなさすぎる。
ああ、パソコンが恋しい。CADソフトが恋しい。マウスで線を引いて、間違えたら簡単に修正できる、あの便利な世界が恋しい!
まさか異世界に転生して、魔法より先にCADソフトのありがたみを痛感することになるとは思わなかった。
……最高神様。
次にお会いする機会があったら、パソコンもお願いしていいですか? あと、畳。どうしてもうまく説明できそうにないから。
◇◇◇◇
それからしばらくの間、あたしたちは少しずつ準備を進めていった。
食料は十分に集まったし、ポーションの材料になりそうな薬草や鉱石も、庭や敷地内で見つけたものを収納している。
地図も手に入れたので、どの方向へ向かうか、いくつか候補を考えてみた。
そして、スーとラーがどんなものに変身できるのかも、少しずつ確かめていく。
家、家具、調理設備、乗り物。
小さな姿にも、大きな姿にもなれる。もちろん、あたし自身も魔法の練習を続けている。何かあったときに、自分の身くらいは守れるようになりたい。
……まあ、まだ五歳なんだけどね。
それでも、準備をしておくに越したことはない。
「よし!」
ある日、あたしは机の上に並べた確認事項を見渡し、大きく頷いた。
「これで、いつでも家出できるね!」
「うん。必要なものは揃ったと思うよ」
「どこへ行っても、ご飯と寝る場所には困らないね!」
スーとラーが嬉しそうに答える。
あたしは二人を見上げ、思わず笑ってしまった。
五歳の誕生日に守護霊獣を授かり、その日のうちに家族から見放されるなんて、想像もしていなかった。でも、スーとラーが来てくれたおかげで、あたしの世界はむしろ広がったような気がする。
家族にどう思われているかは、もう仕方がない。それよりも、これから何をするかの方が大切だ。
「ねえ、スー、ラー」
「なに、マナリア?」
「どうしたの?」
「あたし、二人が来てくれて本当によかった!そうだ!よかったら、あたしのことは『マナ』って呼んで」
「マナっ」
「はーい」
そう言うと、二人は嬉しそうに微笑んだ。
そして、次の瞬間にはスライムの姿に戻り、ぽよんぽよんと跳ね始める。
「あははっ! やっぱり、その姿もかわいい!」
あたしも一緒になって身体を揺らした。
ぽよん、ぽよん。
……うん。
これなら、きっと大丈夫。
だって、あたしはもう、ひとりぼっちじゃないんだから! それにしても、五歳で家出の準備を始めることになるとは……
最高神様。
あたし、今度こそ自由で楽しい人生をお願いしたはずなんですけど?
……まあ、これはこれで、ちょっとワクワクしている自分もいるのだけれど。




