意趣返し
前書きに書くのはこれにて一旦終わりにしようと思います
これからは活動報告の方に色々書いていくので、良ければ見てみて下さい!
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「し、死ぬのはアンタよ!」
その一言でエンジュとグレイストの戦いは始まった。
エンジュは声を震わせながら、グレイストに光線を放つ。
それは先程の波動と異なり、グレイストにも効く攻撃だった。
周囲を一度に攻撃できないものの、誰でも呪う事ができる。
「ふうん。呪いを込めた光線ねえ」
その光線に対し、グレイストはどこからともかく鞭を出現させた。
その鞭こそ、グレイストの得物……紫欲の鞭。
その名の通り紫色で、細く長く、魔力を練って作られている。
常に発熱もしており、この世の物とは思えないほど熱い。
打たれた物は身を裂くような痛みと炎に包まれる事になる。
「ふん!」
「なっ!? あ、アタシの光線が!?」
グレイストはそんな鞭を振るい、光線を打ち砕いた。
呪いは炎に焼かれ、祓われる。
「さあ、どんどん撃ってきなさい! 来ないのなら、こっちからいくわよ?」
「うっ!?」
それでもエンジュは次々に光線を放った……でたらめに何度も何度も。
「遅い! 遅いわ!!
貴方の実力はそんな物なの!?」
グレイストはそんな光線を鞭の一振りでどんどん砕いていく。
エンジュの呪いは一つもグレイストに届かない。
「な、なんなの、コイツ……ただの傭兵の癖に、なんでこんな」
エンジュはそんなグレイストを見て、産まれて初めて恐怖を覚えた。
エンジュは自分の事を呪いのスペシャリストだと思っている。
自分に呪えない物は何も無い……と。
それなのに目の前に居る女は自分の呪いをテキトーに砕き続けている。
呪いのスペシャリストである自分の呪いを。
エンジュの自信は砕かれていく呪いのように粉々になり始めた。
「ふあぁぁ……退屈ね。いつまで、こんな茶番を続けるつもり?
まさか、波動と光線以外に芸は無かったりする?」
「な、舐めないで!」
しかし、エンジュにもプライドがある。これで終わらせるつもりはない。
エンジュは光線を放ちながら、右足に力を込める。
「囲め囲め! その身を覆え!!」
すると、グレイストの周りの地面から無数の釘が飛び出した。
その釘は錆塗れのなんとも汚らしい釘。
今にも崩れそうなほどボロボロの釘だ。
「くっ!? これは!」
だが、次の瞬間、その釘はぐんぐんと伸び始めた。
そして、あっと言う間にグレイストの背を追い越す。
間もなく、グレイストは釘の檻に囚われた。
完全に拘束され、身動きが取れなくなる。
「どう、これがアタシの必殺技! 釘の檻よ!!
呪いを込めた釘を使っての檻!
いくらアンタでも、この檻からは出られないわ!!」
エンジュは声を張り上げ、嬉しそうに言う。
釘の檻はエンジュが持つ技の中でも最強クラスの技だ。
檻を構成する釘の一本一本に強力な呪いがかけられている。
その呪いは釘に触れた時点で対象を呪い、命を奪うというもの。
この呪いを回避する事はできない……脱出する事は不可能。
そして、魔法で檻を壊そうにも錆が魔を避け、受け付けない。
釘の檻は正に完全無欠の技だ。
「……成程、確かにこれは厄介そうね」
「ええ、そうよ! アンタはその檻の中で!!」
「でも、相手が悪かったわね」
「えっ?」
グレイストは目の前に伸びる釘の一本に指を触れた。
普通なら、この時点で即死する……だが。
「ううん……ぐいっとな」
グレイストは何事もなく、指に力を入れた。そして、釘を折り曲げる。
「なっ! なっ!?」
グレイストはそのまま目の前の釘を折り始めた。
一本、また一本……釘は次々に折られ、檻に隙間が空いていく。
エンジュは目の前で起こる現象を理解できなかった。
ただただ驚き、その様子を見つめる。
「ふう……これで最後っと」
そうしてグレイストは全ての釘を折り切った。
目の前の釘だけではなく、背後の釘まで含めて。
折れた釘は無惨に地面に散らばり、その上をグレイストが歩く。
「な、何が起こったの?」
「あら、長々と見せたのに分からなかったの? 釘を折ったのよ」
「それは分かってる! アタシが知りたいのは折った方法!!
力でも魔法でも折れない釘をどうやって!?」
「ああ、その事……それは」
グレイストは一歩ずつエンジュの元に向かいながら、一指し指を見せる。
「溶かして、折ったのよ」
「えっ? 溶かした?」
グレイストの一指し指……そこには小さな小さな炎があった。
その炎は一指し指を包み込むように燃え、白く輝いている。
「ま、魔法で燃やしたの? いや、そんな事はあり得ない!
釘には魔除けの錆があった! その錆がある限り、釘は!!」
「はあ……確かにその錆があれば、魔法は効かないかもしれない。
でも、効かないのは魔法だけでしょ?」
「魔法だけ? はっ!?」
「そうよ、熱は通る……火炎魔法で熱した指で私は釘を溶かした。
本当に相手が悪いわね」
「くっ……」
エンジュは膝を突く……釘の檻は完全無欠だった。自慢の技だった。
しかし、グレイストはあっけなく打ち砕く。
それも鉄は熱に弱いという誰でも知っているような法則を使って。
「さあ、次は何を見せてくれるの?
檻じゃなく、直接釘をぶっ刺しても構わないわ。
ほら、早く見せなさい」
グレイストはそう言うと、鞭を地面に叩き付けた。
口ではそう言うが、これ以上、遊びに付き合うつもりはない。
次にエンジュが動いた瞬間、勝負を終わらせる。
グレイストは鞭を構え、エンジュの次の言葉を待った。
「……えへへへ。かかったわね、このマヌケ!」
「ぐっ!?」
だが、その油断こそ命取り……エンジュは全身からガスを噴き出した。
そのガスは凄まじい速度で部屋中に広がり、グレイストに迫る。
「うっ、ごほごほ……これは毒ガス? まさか、こんな物まで」
当然、グレイストはすぐに距離を取ったが、少し吸い込んでしまった。
グレイストは激しく咳き込み始め、地面に座り込む。
エンジュからしていた嫌な臭い……それは毒の臭いだったのだ。
グレイストの体はどんどん重くなり、末端から痺れ始める。
「かかったかかった。油断したわねえ。
アタシの専門は呪いだけど、毒も得意なのよ。
中々効くでしょ、これ」
「ええ、中々効くわ……でも」
だが、グレイストは冷静だった。
エンジュの方を見ながら、ゆっくりと階段の方に向かい始める。
確かに毒は強力な攻撃だ。どんなに体を鍛えても、毒には敵わない。
毒ガスともなれば、呼吸まで封じられてしまう。
「でも、それは閉所だからこそ! ここから抜け出せば!!」
グレイストは階段に向かって走り始めた。外に出れば、全て解決だ。
「うっ!?」
しかし、グレイストは階段に辿り着けなかった。
階段の手前で壁のような物と衝突し、弾かれる。
「えへへへ! アンタ、どこまでマヌケなの!?
このアタシがそんな穴を気付いてないとでも思った?
アンタはアタシを怒らせたの! 食らいなさい……呪縁釘宴を!!」
――呪縁釘宴。それは釘の檻を超える最強の必殺技。
対象と術者を別の空間に飛ばし、完全に隔離する。
発動には部屋の四隅に釘を生やす必要があるが、その効果は強力だ。
発動すれば早々解除できず、毒ガスも合わされば、勝ちが確定する。
「成程、毒ガスと一緒に新たな釘も生やしていたのね……だけど!」
それでもグレイストは諦めない。
反転し、エンジュに向かって鞭を振るった。
こういう術は術者を倒せば解除できる……その通例に従い、仕留めにかかる。
「っ!?」
しかし、その攻撃はエンジュに当たる前に弾かれた。
透明な壁のような物によって。
「ほんと、どこまでマヌケなのアンタ!? さっきも言ったでしょ!
『このアタシがそんな穴を気付いてないとでも思った?』って!!」
呪縁釘宴にはもう一つ効果があった。それは透明な壁。
術者を覆うように透明な壁が出現し、あらゆる攻撃から術者を守る。
つまり、通例とも言える術者を倒す戦法はエンジュには通用しない。
「分かった? この壁はアタシに害を齎す物は中に入れないの。
物理的な攻撃は勿論、魔法や精神攻撃も。
毒ガスも当然入れない……毒で苦しむのはアンタだけって訳」
エンジュはそこまで言うと、近くに置いてあった木箱に座った。
透明な壁はエンジュと共に移動する。
そして、害を齎さない存在に対しては壁として機能しない。
現に木箱も壁をするりとすり抜けた。
絶対脱出不可能の空間と絶対無敵の守り……それが呪縁釘宴だ。
「……私が思ってた以上に呪縁釘宴は厄介なようね」
「ふっ、アンタでもやっと理解したようねえ。だったら……」
「なら、これはどう!」
それでもグレイストは諦めなかった。
今度は炎の塊をエンジュにぶつける。
グレイストは絶望的な状況にも拘わらず、全く堪えていない。
「ううん、頑丈ね。全く、壊れる様子が無いわ」
当然、炎の塊は透明な壁によって弾かれた。
エンジュには傷一つ付いていない。
「……意味わかんない。一体、どういうつもり?
どうして攻撃したの?」
「どうして? 決まってるでしょ、貴方を倒す為よ。
攻撃しなきゃ倒せないじゃない」
「マヌケ……いえ、真性のバカねアンタは」
エンジュはグレイストを睨みつける。
毒で充満した空間に閉じ込められ、自分の攻撃も効かない状況。
普通なら絶望するか自棄になる所だ。
なのに、グレイストの瞳は熱く燃えている。全く諦めていない。
エンジュは苛付いた……心の底から。
「そらそらそら!」
そんなエンジュの心など露知らず、グレイストは炎をぶつけ続ける。
あらゆる角度から何度も何度も。
そして、何度も何度も弾かれる……透明な壁に穴は無かった。
「しつこい……もしかして、また熱でなんとかしようとしてる?
だったらムダよ! この壁はアタシに害を齎す物を全て遮断する!!
焼け殺そうと炙っても、丁度良い温度に変換されるわ!」
「へえ。それは凄いわ……ね!」
そうして炎をぶつけること十回目。
グレイストは一際大きい炎をエンジュにぶつけた。
その炎はエンジュをすっぽり包み込み、覆い隠す。
「はあはあ……ムダよ! ムダムダ!!
どんな炎もアタシには届かない! 早く毒で死んじゃいなさい!!」
それでもエンジュは余裕の表情……炎に包まれながら、高笑いをする。
毒ガスが撒かれてから既に五分。エンジュの毒はかなり回っている筈だ。
グレイストがどんなに超人でも限界はある……万事休すか。
「ぐっ!? な、なに?
いきなり、息が……」
しかし、限界が来たのはエンジュの方だった……どういう訳か、息が苦しい。
ご褒美を待つ犬のようにハアハアと息をし始める。
だが、いくら息を吸っても満足できない。それどころか、どんどん苦しくなる。
エンジュは空気を求めて、空を掻き始めた。
「……やれやれ、やっと尽きたようね」
「つ、尽きた? これはアンタが……やったの?」
「そうよ。その様子だと、私の作戦は大成功のようね」
そんなエンジュを嘲笑うように炎の向こうからグレイストの声が聞こえる。
エンジュは声を荒げ、怒りたかったが、そんな元気は無い。
大人しく、地面に座り込む。
「呪縁釘宴は……無敵の筈。アタシに害を齎す者は」
「ええ、遮断する。で、害を齎さない物は通すのよね?
例えば……空気とか?」
「ま……まさか」
「そう、私の炎は貴方を焼く為じゃない。酸素を使う為に放ったの」
火炎魔法は魔力によって炎を起こし、対象を熱く燃え上がらせる魔法だ。
魔力は燃料であり、火起こしの道具でもある。
「だけど、魔法で起こしても火は火……空気もとい酸素は必要になる。
熱く燃え上がらせるなら尚更」
そこでグレイストは考えた……炎は届かなくても、酸素は奪えないかと。
無害な物を通す壁なら、当然酸素も通してくれる筈。
炎で包み込めば、きっと酸素を供給してくれる筈だ。
「毒ガスが爆発しなくて良かったわ。本当に」
結果、その予想は当たった。
炎はどんどん壁の中の酸素を消費した……エンジュが使う分の酸素も。
毒ガスには窒息。エンジュは意趣返しされる。
「そ、それでも! 息が苦しいのはアンタも同じ!!
いや、毒ガスが回ってる分、アンタの方が不利! この勝負は!!」
だが、希望は残されていた。その最後の希望にエンジュは賭ける。
「あら? 誰に毒が回ってるの?」
「えっ? な、何?」
「言ったでしょ? 爆発しなくて良かったって。
私の炎は特別なの……酸素以外でも少しは燃えるのよ」
しかし、その希望もあっけなく潰えた……希望は絶望に変わる。
「さて、お喋りにも飽きたし、そろそろトドメといこうかしら」
「ま、待って! せめて、話し合いくらい!!」
「いえ、待たない」
グレイストはそんなエンジュに駄目押しとばかりに炎を放った。
今日一番の炎を。
「あああああ!!」
その炎は残り少ないエンジュの酸素を残らず奪っていく。
エンジュは言葉にならない叫び声を上げ、助けを求める。
その助けが届かない事を知りながら。
「ふう……雑魚にしては中々強かったわね」
間もなく、エンジュは膝から崩れ落ち、地面に倒れた。
そんなエンジュをグレイストは静かに見下ろす。
こうして、エンジュとグレイストの戦いはグレイストの勝ちで終わった。
「皆、すぐ行くわ!」
グレイストはそのままエンジュを蹴飛ばし、マックス達の元に向かう。
エンジュなど、勝って当然の相手。もう構う必要は無い。
「――失態ですね、エンジュ」
「うっ!?」
そう思った矢先、エンジュの方から声がした。
ノイズ混じりの聞き慣れない声が。
グレイストはすぐに振り返る。
「申し訳ありません。うちのエンジュがご迷惑をおかけしました」
そこにはエンジュと……深紫の鎧を着た何かが居た。
その何かはエンジュを抱き抱えながら、グレイストに頭を下げている。
「だ、誰なの……貴方は」
「あっ、これは失礼しました。
私はレインボーアーチの死杯の……騎士という者です」
死杯の騎士はそう言うと、再びグレイストに頭を下げた。
戦いはまだ終わりそうにない。
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