子供の遊び
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「誘拐……ですか。それはまた物騒ですね」
しんと静まり返った部屋にマックスの声が響く。
カッペラ商会はターヴに拠点を置く商会の一つ。
食料品や日用品の他に医療品や美術品……果てには家まで売っている。
また、支店もフォルテ全体に存在し、政財界との繋がりも深い。
フォルテが誇る豪商……それがカッペラ商会だ。
「あ、あの、こういうのって警察の仕事じゃないでしょうか?
いくら私達でも、犯人を捜す事はできないというか……」
「そうだよ。管轄外だ」
そんな商会の娘が誘拐された訳だが……マックス達は乗り気ではなかった。
確かにライフライブは人助けに特化したチームだ。
困っている人が居れば、何をおいても助けに向かう。
だが、警察のように専門知識がある訳ではなかった。
証拠を集め、犯人を捜す……そんな難しい事はできない。
「安心しろ、既に犯人は見つかっている……ドルチェ嬢の居場所もな」
「えっ? そ、それならなんで依頼を?」
「……そんなの決まってるわよ。大統領選のせいよ」
今、フォルテでは次の大統領を決める大統領選挙が行われている。
候補は現防衛大臣ストーソと現大統領カルマンド。
二人は日夜、激しく争っている。
「そ、それがどうして、私達の依頼に?」
「分からない? カッペラ商会はストーソを支持してるのよ。
多額の資金も提供して、仲良しこよし」
「そんな中、ドルチェ嬢が誘拐された……これの意味する所は」
「娘を返して欲しかったら支持を止めろ……っていうこと!?」
現在、選挙はストーソが優勢。カルマンドは押されに押されていた。
このままいけば、ストーソの当選は確実。
カルマンドは大統領を辞める事になる。
金があり、政財界との繋がりも深いカッペラ商会の支持は正に鶴の一声だ。
「上はそう考えている。証拠は無いがな」
その鶴を絞め上げる方法がドルチェの誘拐だ。
ドルチェはカッペラ商会会長の孫娘……何よりも可愛がられている存在だ。
そんなドルチェの命が危ないとなれば、会長はなんでもするだろう。
全財産を払う事も……支持を取り止める事も。
そうなれば、ストーソは一気に不利になる。当選も確実では無くなるだろう。
「だが、もしそうなら……」
「ドルチェ嬢の命は無い……そういう事ですね」
だからと言って、警察に頼む訳にはいかない。
警察という大きな組織が動けば、その情報は必ずカルマンドに伝わる。
もし、カルマンドが首謀者ならその時点で終わりだ。
殺されるなり、移動させられるなり、されてしまう。
「分かりました。その依頼、受けましょう」
「よし。では、状況を説明する……この依頼、絶対に成功させてくれ」
そこに白羽の矢が立ったのがライフライブだ。
少数精鋭のライフライブなら、警察と違い、動きを悟られない。
尚且つ、金等級という最高峰の等級も得ている。
信頼もあり、実績もあるプロのチーム……頼まない理由は無い。
これがライフライブに依頼が来た理由だった。
「――さて、ここがそうみたいです……ここから先は慎重に行きましょう」
数分後、グレイスト達はターヴ郊外にある廃屋の前まで来ていた。
情報によると、この廃屋の奥にドルチェは連れ込まれたという。
グレイスト達は足元に気を付けながら、ゆっくりと廃屋に近付く。
「エバーさん、中の様子はどうですか? 誰か居ますか?」
マックスは声を出さず、口だけを動かしてエバーに聞く。
エバーは探知魔法の使い手だ。
一定範囲内に居る人間の数や位置……様々な事が分かる。
絶対に失敗できないこの依頼……マックスは突入前に情報が欲しかった。
「え、えっと、中には誰の気配も感じません。ただ……」
「ただ?」
「ち、地下から人の気配を感じます。
数は十五人……その内、十四人が武装してます」
「じゅ、十四人……」
グレイスト達は息を飲む。密閉された空間に武装済みの人間が十四人。
恐らく、武装してない一人がドルチェだろう。
地下がどれくらい広いか分からないが、十四人はかなりの数だ。
迂闊に突っ込めば、ドルチェの命は無い。
「どうするの? 四五人ならまだしも、十四人は流石の私でも無理よ。
ドルチェを巻き込んでもいいなら、なんとかなるけど……」
「ううん……」
グレイスト達は全員、そこらの賊を余裕で倒せるくらいの実力を持っている。
平地での戦いなら、相手が百人居ても負ける事は無い。
しかし、今回は屋内。さらにドルチェという人質も居る。
いつものように戦っていては絶対に勝てない。何か作戦を立てる必要がある。
「……アナさん、例の作戦でいきましょう」
「えっ、あの作戦? まあ、いいけど……」
その作戦をマックスは思いついた。グレイスト達は早速、実行に移す。
「へへへ、あと一時間で俺達も大金持ちか。たまんねえな」
「ああ、これからは遊んで暮らせるぞ」
場所は変わり、ここは廃屋の地下。
蝋燭の光がぼんやり照らす中、ガラの悪い男達がたむろしている。
この男達こそ、ドルチェを誘拐した実行犯。
一生遊んでくらせるだけの金を約束され、ドルチェを誘拐した。
手にはナイフや斧を持ち、下卑た笑いを浮かべている。
「ああ、ボールが!」
「ああん?」
そんな男達の前にボールがコロコロと転がってきた。
ボールは数回跳ねた後、動きを止める。
「な、なんだ、このボール? どこから転がって来たんだ?」
「たぶん、外のガキ共のだ。さっきからキイキイうるせえし」
十分くらい前からだろうか。子供達が外で騒ぎ始めた。
郊外とはいえ、ここもターヴ。冒険感覚で来たらしい。
「……おい、お前行けよ」
「ええ……なんで俺が」
男達はその声を鬱陶しく思いながらも、外には出なかった。
あと一時間で大金持ちになれる……今は余計な事をしたくない。
「ちっ……せっかく良い気分なのによお」
それでもボールが転がってきたら話は変わる。
一人の男がボールに向かって歩き始めた。
ここまでボールを探しに子供達が来るかもしれない……そうなったら厄介だ。
そうなる前に外に放り投げる。
「うっ!?」
「な、なんだあ!?」
間もなく、男はボールを拾い上げようとするが、ボールは突然閃光を放った。
その光は男達の目を潰し、混乱させる。
「今よ!」
「はい!」
そこに続けて、グレイスト達もやってきた。
グレイスト達はそのまま男達を蹴散らし、部屋を制圧していく。
そして、数秒後には。
「これで……終わり!」
「ぐは!?」
全ての男達を倒した。男達は全員、床に伸びる。
「作戦、上手くいきましたね」
「ええ。アナ、よくやったわ」
「……どうも」
これがマックスの立てた作戦……子供の遊びだった。
アナは変声魔法で自分の声を男から女。子供から老人まで変える事ができる。
その魔法でアナは子供達を演じ、外に子供達が居ると男達に思わせた。
次に閃光を放ったボール。そのボールはグレイスト特製のボールだった。
岩を溶かして作られており、内側に煌々と燃える炎を宿している。
グレイストはそんなボールを遠隔で破裂させ、男達の目を潰した。
そして、あとは見ての通り……目が潰れた男達をグレイスト達は倒した。
これが子供の遊び……アナとグレイストの合わせ技だ。
「ど、ドルチェさんを見つけました!
色々されてるけど、無事みたいです!!」
「エバー、変な言い方をしない! 早く解いてあげて!!」
だが、グレイスト達の目的は男達の撃破ではない……ドルチェの救出だ。
グレイスト達はすぐにドルチェに駆け寄ると、目隠しと猿轡を外す。
「えっ?」
「だ、誰?」
しかし、そこに居たのはドルチェではなかった。
事前に話に聞いていたドルチェの容姿は美しい金髪の優し気な女性。
対して、今グレイスト達の前に居るのは。
「ふううう……気持ち良かった。あれ、アンタ達、誰?」
茶髪混じりの濁った瞳の女だった。
女は不思議そうにグレイスト達は見つめる。
「あ、貴方は誰!? ドルチェなの!?」
「ドルチェ? ああ、そうだったそうだった……アタシとした事がうっかり」
「……ドルチェじゃないのね」
それでもドルチェの可能性はあったが、言動を見るに違うようだ。
グレイスト達は警戒し、武器を構える。
女から言いようのない嫌な臭いがする……この女は間違いなく敵だ。
「さて、ちゃんとお仕事しないと……ね!」
「くっ!? 皆、避けて!」
次の瞬間、女は全身から緑色の波動を放った。
その波動は目にも留まらぬ速さで部屋中に広がり、グレイスト達の体を貫く。
「ぐっ!? な、なんだ、この感じは……」
「か、体が重い……」
「う、動けません……」
マックス達はその波動を受け、膝を突いた。
なんとか立ち上がろうとするが、体に力が入らない。
全身に広がる倦怠感と痺れ……それによって、体はどんどん重くなる。
「へえ、まだ倒れないんだ……だったら!」
「さ、させな!!」
「ふん、遅いわ!」
女はそこにさらに波動を放った。
グレイストは咄嗟にマックス達を庇いに入るが、時既に遅し。
波動はマックス達に直撃する。
「がはっ!? ぐ、グレイストさん、逃げ……て」
それを受け、マックス達は倒れた……力無く、崩れ落ちるように。
「やったやった! 倒れた倒れた!!
で、何でアンタは倒れてないの?」
そんな中、グレイストだけは何事もなく立っていた。
同じように波動を受けたのにピンピンしている。
女はそれを見て、不思議そうにするが。
「あっ、分かった。アンタ、罪印持ちでしょ?
アタシの呪いって、罪印持ちには効かないんだよねえ。
ほら見せて見せて!」
「……ふう」
すぐに心底楽しそうに飛び跳ね始めた。
グレイストはそれに対し、何も言わず、右の掌を見せる。
「へえ、六千六十六番か。四桁なんて初めて見た。
あっ、もう見せないでいいよ。分かったから」
そこに刻まれた赤い数字……六千六十六。この数字こそ罪印。
罪印持ちは全員、何かしらの数字が掌に刻まれている。
その数字は前世で犯した罪の数とされ、数が多い程、重罪人。
救われない存在だとされている。
「……貴方、名前は?」
そうして見せ終わると、グレイストは静かな声で女に聞いた。
その瞳は熱く燃えている。
「えっ、なに? 名前? 自己紹介なら……」
「名前は?」
「うっ……エンジュ。呪言のエンジュよ」
「そう、エンジュと言うのね……ありがとう」
グレイストは深く息を吐く……これで準備は整った。
「これで心置きなく、貴方を殺す事ができるわ」
「くっ!?」
グレイストは淡々とそう言うと、凄まじい殺気をエンジュにぶつける。
エンジュはこの時になってようやく気付いた。
一番残してはいけない人物を残してしまった……と。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
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