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紫欲の魔女

初めましての人は初めまして!

前作を見てくれた人はまたよろしくお願いします!

新シリーズ、スタートです!!

「――良い風。こんなに気持ち良い夜はいつぶりかしら」


 雲一つない夜の町を一人の女が往く。スタスタと小気味いい音を鳴らしながら。

 数日間降り続いた雨は雲と共に消えた。今日はただ、穏やかな風が吹いている。

 だが、口調とは裏腹に女の声は暗く、顔も暗かった。

 まるで、女の真上にだけ雨が降っているかのように。


「おい、見ろよ。『紫欲の魔女』だ」

「あら、本当。嫌だわ、せっかく良い天気になったのに」

「見るな見るな。不幸が移っちまうぞ」


 そんな女に傘を差し出す者は居ない。

 女は髪を靡かせながら、家路を急ぐ。

 その背に投げつけられる無数の石を無視して。


「ふう……ただいま!」


 女はそのまま歩き続け、ある家の前に辿り着いた。

 その家は女の家。女が頑張って、買った家だった。

 小さいながらも立派に立っている。

 女は一息吐いてから、その家の扉を開けた。


「お義母さん、おかえりなさい!」


 すると、一人の少女が弾けるような笑顔と共に女に抱き着いた。

 少女の名はリーナ。先週十歳になったばかりの女の子だ。

 女は娘と二人で暮らしている。


「お腹空いたでしょ? 今からご飯を作るから、ちょっと待っててね」

「うん!」


 女はリーナの頭を撫でながら台所に向かう。時刻は既に七時過ぎ。

 お腹を空かせた我が子の為、女は張り切って作り始める。


「お義母さん、夜泣き鳥のご飯美味しかった?」

「ええ、美味しかったわよ。でも、お母さんの料理には負けるかな」


 女はいつも五時には帰るようにしている。娘を置いて、遊び歩いたりしない。

 それにも拘わらず、今日帰るのに遅れたのは仕事の付き合いがあったからだ。

 育ち盛りの娘を育てるにはどうしてもお金が要る。

 付き合いを断る訳にはいかなかった。


「さあ、できたわよ。めしあがれ」


「わあ、良い匂い! ありがとう、お義母さん!!

 いただきまあす!」


 リーナは満面の笑みを浮かべながら、夕食を食べ始める。

 今日、女が作ったのはオムレツとコーンスープ。そして、若鶏の串焼きだった。

 鶏肉は事前に味を滲みこませており、リーナ好みの味付けにしている。


「どう? 美味しい?」

「うん、美味しいよ! リーナ、これ大好き!!」

「それは良かったわ。流石、私……初めてでも上手くいくものね」


 女は満足気な表情で頷く。女は大抵の事はなんでもできる天才肌だった。

 料理の腕もプロの料理人並みにある。


「……ねえ、リーナ。もし引っ越しするってなったら、貴方は嫌?」


 そんな女でも人の心は分からなかった。女はリーナに恐る恐る聞く。

 まだ決まっていないが、女は引っ越しの予定を立てていた。


「ひっこし?」


「ええ、引っ越し。このターヴを離れて、別の町や村に行くの。

 今住んでるこのお家も離れて、別のお家に住む事になるわ」


「別の……おうち」


 女とリーナは今、ターヴという町に住んでいる。

 ターヴは芸術の国フォルテの歴史ある町。過ごし易い気候と整った町並み。

 治安も悪くない事から、人気の町になっている。


「いつ、おひっこしするの?」


「……いつかは分からないわ。でも、あくまでもしもの話よ。

 だから、そんなに心配しなくてもいいわ」


 女はそう言うと、リーナを優しく抱き締めた。

 女もできる事ならターヴを離れたくない。

 ターヴは子供と住むには理想的な町だ。

 この町以上に住み易い町はないだろう。


「さて、食べ終わったら次はお風呂よ。汚れをしっかり落とさないとね」


「ええー、リーナ別に汚れてないよお」


「こら、我儘言わない。今の内から綺麗にしておかないと、後が大変よ。

 ちゃんと洗いなさい」


「むうう、わかった」


 間もなく、リーナは食べ終わると、言われた通り浴室に向かった。

 丁度良い温度にリーナはウトウトするも、しっかり身体を洗う。


「お義母さん、今日はこの本を読んで!」


 そうして風呂から出ると、リーナは一冊の本を女に渡した。

 時刻は既に九時過ぎ。リーナはこの時間になると、女に本を読んで貰っている。


「えっと、開拓記? また、この本を読んで欲しいの?」

「うん! リーナ、その本大好き!!」

「はいはい、分かったわ。じゃあ、読んでいくわね」


 女は眼鏡をかけると、早速その本を読み始めた。


「昔々、私達がまだこのドムスに暮らしていなかった時代。

 私達は別の世界に暮らしていました。

 その世界は正に地上の楽園……水も食べ物も沢山あったそうです」


 ドムスとは女やリーナ……その他の人間が今住んでいる世界の名前だ。

 星の絵が描かれた天井に覆われ、世界に端がある半球形の空間。

 空にはパレスという白く光る球体が浮き、世界を照らしている。


「しかし、恐ろしい悪魔が現れた事でその状況は一変します。

 突然、水は枯れ、食べ物も無くなったのです。

 慌てた人々は神に祈りました……自分達を救って下さいと」


「そしたら神様が現れたんだよね!」


「ええ、そうよ。人々は神に導かれ、ある世界に辿り着きました。

 その世界こそ、今私達が暮らしているドムスです。

 人々はドムスに移住し、開拓を始めました。

 その世界を第二の楽園にする為に」


 そこまで読んだ所で女は本を閉じた。

 開拓記は長い本だ。全部読んでいたら朝になってしまう。


「続きはまた明日……さあ、早く寝なさい。子供は早く寝るものよ」

「はあい。お義母さん、おやすみなさい」

「はい、おやすみ」


 女はリーナを寝かしつけると、自分もベッドに横になる。

 女は明日も仕事だ。今日の疲れを残していたら働けない。

 目を閉じ、頭も真っ白にして、眠るよう努める。


「……眠れないわね」


 だが、女は眠れなかった。頭を真っ白にしても、すぐに黒く塗り潰される。

 リーナが眠りに就く中、女はいつまでも眠れない。


「除名、か」


 その原因は数時間前……仕事の付き合いで夜泣き鳥を訪れた所まで遡る。


「こ、ここが夜泣き鳥ですか……なんていうか、凄い」

「そう、緊張しなくていい。頼みたい物があったら、なんでも頼んでくれ」

「そうよ、マックス。せっかくだから甘えちゃいなさい」


 女は二人の男と共に夜泣き鳥を訪れた。

 夜泣き鳥は少しお高めな大人のお店。落ち着いた店内に整った服装の店員。

 普通の店とは違う雰囲気に男の一人が呑まれる。


「あ、甘えなさいって……グレイストさん、無理言わないで下さい」


 そんな男の名はマックス。気は弱いが、仕事の腕は一流のできる男。

 顔も良い事から、女受けも良い。


「まあ、本当になんでも頼まれると困るが。

 今日は無礼講だ。どんどん頼んで欲しい」


 もう一人の男はピア。気さくで優しいが、押しに弱い傭兵ギルドの支部長だ。

 傭兵ギルドは傭兵の為の組合。世界各地に支部があり、仕事を斡旋している。

 ピアはそんな傭兵ギルドのターヴ支部長。

 二人の今までの働きを労う為、今日夜泣き鳥に誘った。


「じゃあ、お言葉に甘えて……店員さん、名物の串焼きを十本!

 あと、ポークステーキも頂戴!!」


「……君は遠慮してくれ」


 そして、女の名はグレイスト。この町で傭兵として働いている女だ。

 煌めくような紫色の髪。整った美しい顔立ち。男達の視線を釘付けにする身体。

 この町でグレイストを知らない者は居ない。


「お、美味しい! 美味しいですね、これ!!」

「そうね。中々の味だわ」


 そんなグレイストはマックスと共にライフライブというチームを組んでいる。

 ライフライブはマックスをリーダーとした救助護衛専門のチーム。

 戦う事よりも救助や避難誘導など、人助けに特化している。

 先週も盗賊達から村を守った所だ。


「さて、そろそろ本題に入りましょうか。

 ただ私達を労う為に呼んだ訳じゃないんでしょ?」


「えっ? そうなんですか?」


 十分後、食べに食べ捲ったグレイストはピアに詰め寄る。

 ライフライブにはマックスとグレイストの他にもう二人。

 アナとエバー。二人のメンバーが居る。

 だが、支部長はその二人を呼んでいない。

 本当に日頃の働きを労う為なら、二人も呼ぶべきだろう。

 呼んでいないのには何か理由がある筈だ。


「……その通りだ。今日、君達を呼んだのには理由がある」

「理由……それはなんですか?」

「君達の……昇格についてだ」

「っ!?」


 傭兵ギルドは傭兵やチームに等級という物を付けている。

 等級は下から鉄、銅、銀、金、白銀の五つ。

 上がっていく毎に受けれる依頼の数や恩恵が増えていく。

 傭兵で食っていくには上を目指すしかない。


「昨日、等級会議があってね。どのチームを上げるか下げるか話し合ったんだ。

 そこで君達の名が挙がった……銀等級の君達の名がね」


「じゃ、じゃあ!」


「ああ。今までの君達の働きを考えると、もう銀では収まらない。

 私からも指名させて貰った……金等級をどうかと」


「やっ! やった!!」


 その言葉にマックスは歓喜した。ライフライブを結成して、四年。

 早々に銀等級になったものの、長らく振るわなかった。

 それでも腐らず頑張り続けた結果、遂にその努力が報われる。

 マックスは子供のように喜び、涙を流し始める。


「……だが、それには一つ条件がある」

「えっ、条件? 何かあるんですか?」


 しかし、本当の試練はここからだった……ピアは続けて言う。


「ああ、ある。その条件とは……グレイストの除名だ。

 グレイストを除名すれば、君達は金等級に上がれる」


 その言葉でマックスの涙は止まった。

 マックスはピアが何を言っているのか分からない。

 除名……それはすなわち追放だ。ピアはグレイストを追放しろと言っている。


「な、なんでですか!? どうして、グレイストさんを!?」


「……君達は適正労働法を知っているか?」


「知ってるわ。去年制定されたばかりの罪印持ちに対する法律よね?」


「そうだ。罪印持ちが常人と同じ職場で働く事を禁じる法律。

 常人に働く場所を提供する法律だ」


「そ、それがなんで、グレイストさんを除名する話になるんですか?」


「忘れたのか? グレイストも罪印持ちだ」


「はっ!?」


 ――罪印。それは前世で罪を犯した者に刻まれるという烙印。

 それを持っている者は今世にて罰を受け、肉体的もしくは精神的。

 またはその両方で劣った存在にされる。

 グレイストもそんな罪印を持っていた。


「よ、傭兵ギルドは実力があれば、身分にかかわらず評価するんでしょ!?

 良いんですか、それで!!」


「良いも何も無い。法律でそう決まったんだ……我々にはどうにもできんよ」


「そ、そんな……」


 マックスは肩を落とす。天国から一転、地獄に叩き落とされた。

 グレイストは大切な仲間……追放するなんて考えられない。


「マックス、私を追放しなさい」

「なっ!? 何を言ってるんですか!?」


 そんなマックスに対し、グレイストは静かに言う。その表情は真剣だった。


「マックス、貴方には弟や妹が沢山居るでしょ?

 その子達の為にも、この話を逃す理由は無いわ」


「そ、それはグレイストさんも同じでしょ!? リーナちゃんを育てるには!」


「私なら大丈夫。こういう時の為にお金は貯めてるし、次の仕事の当てもあるわ。

 でも、貴方は違うでしょ? 貯金どころか、今の生活を続けるのも辛い。

 違う?」


「うっ……うぅ」


 マックスは頭を抱える。グレイストの言う通り、マックスには弟や妹が居た。

 亡くなった両親に代わり、弟達を育てている。

 金等級になれば、暮らしは一気に楽になるだろう。

 少なくとも、何も食べれない日は無くなる。


「すみません、グレイストさん……すみません」

「気にしなくていいわ。そういう世界だもの……」


 結果、マックスはピアの条件を受け入れた。

 マックスは涙を流しながら、何度も何度もグレイストに謝る。

 こうして、グレイストはライフライブから除名された。

 だが、グレイストはマックスの事もピアの事も恨んでいない。

 事実をただ受け入れる……仕方なかったと。


「……そうよ、そういう世界なのよ。それでも頑張らなくちゃ」


 グレイストは気持ちを切り替え、再び目を閉じ、頭を真っ白にしていく。

 グレイストに止まっていい時間は一秒たりとも無い。

 リーナの為にも前に進み続ける。


「――ぐ、グレイストさん! こっちこっち!!」

「アナ? 一体、どうしたの?」


 次の日、グレイストは傭兵ギルドを訪れた。

 除名されたと言っても、すぐに辞めさせられる訳ではない。

 正式な手続きをするまで、グレイストはライフライブの一員だ。

 その日が来るまで、今まで通り働き続ける。


「と、とにかく、こっちに来て下さい! 早く!!」

「わ、分かったわ」


 グレイストはアナに急かされるまま、奥の部屋に向かう。

 奥の部屋は支部長であるピアの部屋だ。

 グレイストは押し込まれるように部屋に入る。


「来たか。早速で悪いが、状況が状況だ。

 先に説明させて貰う」


 部屋には既にマックスやエバー。ピアも居た。

 ピアはグレイストの姿を確認すると、そのまま話し始める。


「カッペラ商会のドルチェ嬢が誘拐された。

 君達にはその救出をお願いしたい」


「誘拐……」


 この時のグレイストは知らなかった……この依頼が全ての始まりになる事を。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました!

もし誤字脱字がございましたら、ぜひ教えて下さい! 修正致します!

感想・評価・リアクションも募集します! よろしくお願い致します!

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