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悪魔に対する召喚術~その悪魔、返品不可につき。しょうがないのでとことん利用してやります~【10/9よりS2連載中!】  作者: 詩夏未帆
第二章:ルドルフ編 峡谷の翼竜

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第67話:天空の愛し子



 

「お祖父様、怪我はないですか?」

 

 無事に合流したルドルフにディアナは駆け寄る。見た感じ、大きな怪我もなく普通に歩けているが、内臓など見えないところに傷を負っているかもしれない。

 視線は定まっているか。呼吸は正常か。ディアナは細かな違和感も見逃さないようにと、無遠慮とも思える視線をルドルフのあちこちに走らせた。


「大事ない。お前も無事か」

「私は平気です。……庇っていただき、ありがとうございました」

「孫を庇うのは当然のことだ」


 デニスから杖を受け取り、いつもの調子に戻ったルドルフを微笑みながら見つめる。

 そして、気まずそうに腕の中の卵石を差し出した。


「——申し訳ありません。課題だった卵石を、砕いてしまいました」


 美しい卵形をしていたヴェクスの卵石は、半分ほどになってしまっていた。

 助けるために必要なことだったとはいえ、その責は受けなければならない。

 神妙にルドルフの言葉を待つディアナを、ルドルフはじっと見つめる。


「構わん。それはお前にやろう」

「え……?」

「課題は無事に終わった。既に、それは役目を終えている。

 ——割れたとて、貴重な素材だ。しっかり役立てるように」


 言われ、ディアナは卵石をきつく抱きしめる。


「……はい!」


 そのときだった。ディアナの腕の中で、ぴしりと乾いた音が漏れる。

 見ると、半分になってしまっていた卵石に、次々と細かな亀裂が走ろうとしていた。

 驚くディアナの前で、卵石は大きく割れごろりと転がる。——その中から、白い小さな卵が転がり出てきた。


「これ、ヴェクスの卵じゃないですか?」


 ディアナの背後から覗き込んでいたデニスが驚きの声を上げる。

 続いてリヴィウスも、珍しく純粋な驚きを含んだ視線を卵へと向けていた。


「ヴェクスの卵石から通常の卵が生まれるのは、百年に一度あるかないかだ。

 恐ろしく運がいいな」

「これが、ヴェクスの卵……?」


 腕の中の卵をそっと見下ろす。ほんのりと温かいそれは、確かに命が宿っていることをディアナに伝えていた。

 再び白い殻に亀裂が走る。揺れ動きながらその割れ目を大きくしていくのを見て、感動で止まっていた思考が動き出すのを感じた。


 ——これ、生まれたらどうしたらいいの?


 見守る中、白い殻が完全に半分に分かたれる。

 薄黄緑色の塊がもそりと動き、空のような、透き通った青い大きな瞳がディアナを映した。


「キュイ」


 その額で、卵石にも似た深い緑の宝玉が輝く。

 たった今生まれた命。——ヴェクスの雛は、ディアナを見上げ嬉しそうに産声を上げた。




 ◆




 生まれた雛には、ラーノと名付けた。

 あれから巣に帰そうと悪戦苦闘したのだが、ディアナを親と定めてしまったのかまったく離れようとせず、結局ミシュトレイまで連れてきてしまった。

 法に触れたりしないだろうかと怯えながらレナードに報告したのが、帰宅してすぐ。

 何とかなるだろうと、とりあえずディアナが世話をすることになり、二日。

 ラーノはあっという間にローズベルト家に馴染んでいた。


「キュイ!」

「ふふふ。ラーノ君、かわいいですねーお嬢様。お菓子食べます?」

「キュ!」

「ローラ。あまりあげ過ぎたらだめよ。その子、あげたらあげただけ食べちゃうんだから」


 ローテーブルの上でクッキーに齧りつきながら転がるラーノを微笑ましく眺めながら、ローラがうっとりと呟く。


「結局、この子どういう扱いになったんですか?」

「アルノルト卿と相談して、リヴィウスの使い魔ということにしたらしいわ。魔術師は申請を出せば魔獣とかを使い魔に持てるらしいから。……それでも、ヴェクスの使い魔は異例らしいけど」


 魔獣とは、一定の知性を持つ魔術属性を持つ生き物のことだ。魔物と大きな生物学的差があるわけではなく、ギルドに魔獣として登録されているかどうかで区別されることが多い。

 

 基本的に穏やかな気性で小型のものが多く、大型だとしても馬や牛程度のものが大半だ。

 なので、魔物の中でも気性が激しく、成長すれば小屋程度にまでなるヴェクスは、異例中の異例だった。


 そこまで考え、ディアナは思考に蓋をする。ヴェクスの成長速度がどれくらいかは知らないが、成長したときのことを今考えるのは精神上よろしくない。

 大きくなったら、そのときに考えよう。

 

 紅茶と共に面倒な問題を流し込んでいると、自室の部屋が丁寧にノックされる。

 この叩き方はウォルターに違いない。返事をすれば、想像していた通りの老執事が扉を開き姿を現した。


「お嬢様。ご報告したいことがございます」

「あら。なにかしら」


 珍しい用件にディアナは首を傾げる。基本ウォルターが報告をするのは当主であるレナードだ。

 それがディアナにということは、リヴィウスに関連する何かに違いない。

 あの悪魔が何かしでかしたのだろうか、と勘繰りながら問うと、ウォルターは珍しく歯切れの悪い様子で口を開いた。


「……ルドルフ様からリヴィウス様にと、仕立て工房の方がいらしております」


 ……どういうこと?



 

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