エピローグ:闇を歩む白
暗く、淀んだ地下牢。
国家反逆レベルの重罪人が収容される、都市の中でも闇の部分に押し込まれたグランの耳に、カツリと小さな靴音が届いた。
重要施設だけあって、警備は厳重。憲兵に気付かれずここまで侵入できる者など、神か悪魔だろう。
のろのろと顔を上げる。闇しかない空間に、眩いばかりの白がはっきりと見えた。
「魔導書が破壊された気配を感じて来てみたら。捕まってしまったんだね」
玩具を壊してしまった幼子に語り掛けるよう、その白いローブの人物は牢の中のグランを見下ろす。
跳ね上がるように身を起こしたグランは、まだ細く力の入らない手で鉄格子に縋りついた。
隙間から手を伸ばし、白を求める。
「もう一度チャンスを! 今回は、運が悪かった。だが、私ならばもう一度、もう一度機会があれば……!」
「確かに、君はすごく有能だからね。もう一度別の地で挑戦したら成功するかもしれない」
「なら……!」
「でも残念。私はもう、君に興味ないんだ」
伸ばす手を無視し、白いローブの人物は鉄格子越しにグランの目の前に膝をつく。
赤い瞳がグランの底を覗くよう、ゆったりと細められた。
「ここに来たのは君の中にある私に関する記憶を回収するため。まだ国家魔術師たちに自分の存在を気取らせるわけにはいかないからね。
——ああ、命までは取らないよ。安心して。
ただ、記憶を抜いて今まで通りいられるかはちょっとわからないな」
グランの頭に手を伸ばす。途端、苦しむように痙攣したかと思うと、グランはその場に崩れ落ちた。
奪った記憶を戯れに覗く。記憶の最後に、黒い炎が躍った。
「ふうん……?」
どこかで見たような気がするその色に、白いローブの人物は少しだけ興味を持つ。
だが、すぐにどうでもいいかと記憶を消した。
しんと静まり返る闇の空間に、ぽっかりと浮く白は汚れのない爪先を外へ続く階段に向ける。
「——さあ、次はどこへ行こうかな」
楽しそうに語るその声が、誰も聞くことのない闇に静かに響いた。
これにてシーズン1完結です!ありがとうございました!
シーズン2は、10/9より連載開始予定です。
詳しくは近況報告をご覧ください。
これからも、どうぞ二人の旅路を見守ってくれたら嬉しいです。




