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悪魔に対する召喚術~その悪魔、返品不可につき。しょうがないのでとことん利用してやります~【10/9よりS2連載中!】  作者: 詩夏未帆
第四章:都市謀略編 強欲なる契約者

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第49話:座るのは交渉の席



 

 ヘンリーがグランを拘束する。その様子を静かな決意と共に眺めていたディアナは、背後から近づく気配に驚くことなく振り返った。

 リヴィウスが静かに立っている。そう、事件は終わった。だが、ディアナにとってはまだ、終わりじゃない。

 

「じきに日が暮れる。契約の時だな」

「ええ、そうね。——リヴィウス。話をしましょう」


 静かにリヴィウスの瞳が見開かれる。何に驚いているのか、ディアナには見当がついた。

 初めて呼ぶ悪魔の名前を、ディアナはもう一度口の中で転がす。


 初めて出会ってから今まで、ディアナはこの悪魔の名前を呼んだことはなかった。

 怖かったのだ。名を呼び、受け入れてしまえば、もう後戻りはできない気がして。

 

 両親に対して背を向けていたように、ディアナは彼に関してもまた、心から向き合っていたわけではなかった。

 契約を受け入れ、願いを伝えるということは、悪魔契約に屈することだとずっと考えていたから。

 

 だからこそ、避ける道を探してきた。

 契約自体を破棄する方法を、この三日間ずっと。

 

 だが三日間、この悪魔と走り続けてきて、考えが変わった。

 向き合うことは、受け入れることは、決して屈するというわけではない。

 逆に、乗り越えるために必要なことなのだと。


 悪魔契約は悪魔の領域。人間であるディアナが立ち向かえるものではない。

 本当に?

 

 いや違う。これから挑むのは交(・)渉(・)だ。

 そして交渉は、商(・)人(・)で(・)あ(・)る(・)デ(・)ィ(・)ア(・)ナ(・)の(・)領(・)域(・)だ。


「願いを聞こうか」

「いいわ。——私の願いはね、幸せになることよ。

 この世界の誰よりも。誰もが羨む、最高の幸福の享受。

 それが、私の願い」

「幸せね」


 少しだけつまらなそうに、リヴィウスは呟く。


「昔から多くの人間が願ってきた、有り触れた望みだな。だがそれじゃあ具体性に欠ける。お前にとっての幸せとは何だ?」


 ここからだ。一世一代の大勝負を前に、ディアナは一度目を閉じる。

 これはもしかしたら、交渉とは言えないのかもしれない。なんなら、博打にだって近い。

 だがディアナは、この賭けに負けるつもりはなかった。

 相(・)手(・)が(・)リ(・)ヴ(・)ィ(・)ウ(・)ス(・)だ(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)、決して負けないと信じることができた。

 

 目を開く。決意を秘めた眼差しで、ディアナは勝負の狼煙を上げた。


「私の幸せはね。ローズベルト商会が世界に名だたる大商会へ発展すること。

 世界中の人が、魔術師も一般人も関係なく、魔道具によってほんの少し豊かで幸せな日常を送れるようになる。

 そんな世界を、私(・)自(・)身(・)の(・)手(・)で(・)作り出すことよ」


 ディアナの背後でレナードが驚いたように息を呑む。その様子に、リヴィウスに集中しているディアナは気付くことはなかった。

 

「なるほど、世間相手に宣戦布告するわけか。

 いいだろう。お前がその信念を貫くっていうなら、俺も手を——」

「あら、まだ終わりじゃないわ」


 一人で勝手に納得し契約に進もうとするリヴィウスを遮る。

 出鼻をくじかれたリヴィウスは、呆れたように高々と挙げかけた手を下ろしディアナを見た。


「……まだあるのか?」

「当然でしょ。なんせ魂が懸かっているのよ。これだけで私が満足するわけないでしょう?」


 よく聞いてね、とにっこりと微笑みながらディアナは続ける。


「商会の発展はもちろんだけど、人生それだけじゃないものね。

 私や私の大切な人たちが心身ともに健やかに日々を過ごし、いずれは愛する人と結ばれ、みんなに見守られながら式を挙げるの。

 かわいい子どもに恵まれて、そうそうペットも飼ったりなんかしちゃったりして。

 喧嘩したりもしながら絆を深めて、孫たちを可愛がりながら穏やかに老後を過ごしたりするんだわ。

 ──それで最期は家族に見守られて、自宅のベッドの上で天寿を全うするの」


 立て板に水の勢いでぺらぺらとまくしたて、ディアナは極めつけとばかりにリヴィウスに満面の笑みを返す。


「それを、貴方に見届けてほしいのよ」


 ぽかんとリヴィウスが呆気に取られる。彼のこのような表情を見るのは新鮮だ。

 反応の悪い悪魔に、ディアナはにんまりと意地の悪い笑みを濃くして囁く。


「こ(・)の(・)意(・)味(・)が、悪魔である貴方にわからないわけがないわよね?」


 数秒の硬直。

 開いた口が塞がらない様子だったリヴィウスは、ディアナの言葉を聞き僅かにその口元をひきつらせた。

 その反応に、ディアナは賭けに勝ったことを知った。




 

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