第42話:狂い始めた計算
「自分で認めるかね? それとも、最後まで説明しようか」
「……話を聞きましょう」
まだ足掻くディアナを内心見下しながら、グランは映像の一部を再び映す。
「これはそなたで、この男は悪魔だな。あのゴーレムをあのように破壊できる存在など、他にありえない。
そなたは何らかの方法で悪魔契約を果たし、使役している。違うかな?」
「……」
ディアナは沈黙したまま話さない。形勢が自分に向いていると感じ、グランは優越感に浸りながら続けた。
「国家魔術師以外の悪魔契約は重罪。だが短剣の窃盗ならば、まだ罪は軽い。
短剣の罪を認めるならば、私が軽い罰で済むよう話を通してあげよう」
「……それだけではありませんよね」
何が目的です? と強い視線を向けるディアナに、グランは「簡単だ」と笑みを深くする。
「悪魔契約に用いている手段を渡せ」
「それは、魔術師様のほうがご存知では」
「通常のやり方はな。だがそなたはゴーレム破壊で一回、短剣の窃盗時に一回、少なくともこの短期間で二回も悪魔契約を果たしている」
そんなことは、通常ではありえない。
「——あるはずだ。容易に悪魔を使役する方法が。それを渡してほしい。
……そうすれば、ローズベルト商会を守ってやれる」
そなたは今までの日常を続けることができる。
甘い毒となるよう、グランは言葉を紡ぐ。
相手は成人したばかりの少女。いくら気丈に振舞っていても、突然危機に放り込まれ冷静でいられるはずがない。
少し甘く囁けば簡単に下るだろうと、グランは希望をちらつかせディアナの退路を断つ。
ふう、とディアナは物憂げに息を吐く。
「とても魅力的な提案ですね」
そう語るディアナの言葉に、グランは勝利を確信した。
「よろしい。ならば——」
「でも申し訳ありません。私、もう今までの日常では満足できませんの」
勝利宣言をしようとしていたグランを遮り、ディアナは穏やかに笑う。その様子に、グランは薄ら寒さを覚えた。
笑みを消し、ディアナは毅然とした態度で言葉を紡ぐ。
「それは私ではありません」
「なっ……!」
ディアナの否定にさすがのグランも動揺する。ここまではっきりと映っていて、それでも否定するとは思わなかった。
自棄になっているようにも見えない。どういうことだ、とグランは狼狽を隠し反撃しようと口を開く。
「映像が偽物だとお思いかな? そうであればお門違いだ。国家魔術師に提出すれば、すぐに本物だとばれる」
「いいですね。ぜひ提出してくださいな。
——でも私、一つ疑問に思ってることがあるんです」
グランの反撃にも動じず、ディアナはにっこりと微笑みながら鈴の音のような声で続ける。
その声を聞きながら、グランは何かがおかしいと感じ始めていた。
目の前にいるのは僅か十六になったばかりの少女。世間も、逆境も何も知らず、ただぬくぬくと温室で育っただけの令嬢。
そのはずだ。だが、感じるこの違和感はなんだ。
「映像のゴーレム破壊は二日前。短剣の件は昨日。
国家魔術師様は、いつ魔術師ギルドから報告を受けこの都市にいらしたんでしょう」
目の前で、ディアナは優雅な微笑みを浮かべ小首を傾げる。
「国家魔術師は王都に駐在しています。他の都市への派遣は、吟味に吟味を重ね王の勅命の下ようやく実施されるもの。
万が一、かつてない速さで勅命が下りたとして、王都からこの都市までは片道七日。
……早すぎると思いませんか?」
鋭い指摘に、グランは内心唸る。
どうせ魔術師のことなど何も知らない令嬢だと高をくくっていたが、それくらいの知識はあるらしい。
「それは……国家魔術師は王の名の下に転移石を使用できる。それを用いれば、時間など」
「転移石! あれは素晴らしいものですね」
グランの弁明に、ディアナは表情を明るくさせる。
「もっと普及してくださればいいのに、高価な上希少なので特定の都市にしか置かれていないのが残念です。一般人では、利用するなど夢のまた夢でしょう。
確かに、転移石を用いれば容易に時間を短縮することができるでしょう」
でも、この都市にはありません。
微笑みを浮かべたまま、ディアナはまるで明日の天気を話すかのように重大な事実をあっさりと口にする。
「一番近くの転移石でも、この都市から二日は離れています。
貴方は国家魔術師にゴーレムの映像は見せておらず、短剣の報告のみしています。リックに短剣を預け、送り出したのは今日です。
——どう考えても、計算が合わない」
教えていただけませんか。
歌うように、ディアナは言葉を紡ぐ。
「貴方はいつ、どのように、我が家の嫌疑を報告したのか」
グランから表情が消える。既にグランの中から、相手がただの小娘であるという考えは消えていた。
ひしひしと感じる違和感を隠したまま、グランは目の前の存在を睨みつける。
「……転移石の位置は、魔術師の間でも機密事項だ」
「あら、そうだったんですね。生憎と、私結構目が利きますの」
口元を隠しながら、少女は上品に笑う。
「それよりも、もし貴方が部下に国家魔術師を騙らせて、このような事態を引き起こしているとしたら。
──国家魔術師は王直属の機関。
その国家魔術師を騙るそちらこそ、王への反逆で罰せられても、仕方がないと思いませんか」
暗にこちらの罪を指摘するディアナに対し、グランは表情を歪める。
「だが、そなたもばれては困ることがあるはずだ。あの映像は本物だ。偽造はない」
「何度も言いますが、それは私ではありません」
どういうことだ。困惑と共に違和感は次第に大きくなる。真実を掴もうにも、雲を掴むようにすり抜け、実体がない。
あれはいったいなんだ。私は今、何の前に立っている。




