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悪魔に対する召喚術~その悪魔、返品不可につき。しょうがないのでとことん利用してやります~【10/9よりS2連載中!】  作者: 詩夏未帆
第四章:都市謀略編 強欲なる契約者

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第41話:慇懃たる化かし合い



 

『——力が欲しいのかい』


 鮮烈な赤を見なくなって久しく。

 グランの目の前に白いローブの男が笑みを浮かべ立つ。


 その男はどこまでも白く、潔癖だった。

 この色の溢れる世界で、容易く染まりそうに見えてそうはならない、異様な男。

 靴先一つ、地に触れるローブの裾すら他の色を纏うことを許さない。


 そんな白一色の男が、唯一の色である赤い瞳をグランへ向ける。

 その赤は、かつて見た鮮烈な赤よりずっと禍々しく、生々しい、命の色をしていた。

 

『ならこれを使うといい。きっと君の助けになるだろう。

 期待しているよ、グラン・オルフォード卿。

 ——君と、私の夢のために』





 

 ◆






「お待たせしたかな」


 報告を受け、レナードの元から離れたグランは奥まった一つの部屋の扉を開ける。


「お構いなく。喉を潤すにはちょうどいい時間でしたわ」


 ソファでゆったりと寛ぎながら、ディアナは入ってきたグランを微笑みと共に迎える。グランもまた、その前へと深く腰掛けた。


「まさかそちらのほうから出向いてくれるとは思わなかった。話は聞いているかな」

「当商会が、不当に嫌疑をかけられているというのは聞いておりますわ」


 頬に手を当て、悲しそうに目を伏せる。素知らぬ顔をしてなかなかの役者だ、とグランは目の前の娘を油断なく見つめた。


「これまで都市の発展に尽力してきたローズベルト商会に、まさかこんな濡れ衣を着せるなんて。とても残念でなりません」

「これが濡れ衣かどうかはすぐにわかることだ」

「ええ、そうですね。すぐに」


 二人の視線が交錯する。

 先に動いたのはグランだった。懐から小さな水晶球を取り出し、机の上に置く。


 軽く指で叩くと、上に向かい短剣の映像が現れた。見事な装飾の施されたその刀身には、大きく亀裂が走っている。


「そなたの家の庭師が所持していた。鍛冶屋で修繕を頼むところだったらしい。

 ディアナ嬢、そなたに頼まれたと言っていた」


 正確には、あの庭師はディアナから頼まれたとは一言も漏らしていなかった。

 だが言を操る魔術師の尋問に、庭師風情が対処できるわけもない。少し揺さぶれば反応は顕著で、態度は言葉よりも雄弁だった。


 しかしそれをわざわざ正直に伝えるつもりはない。舌戦で重要なのは、手札を如何に切るか。

 ありもしない手札をあると思い込ませ、どうこちらが優勢かと思わせることだ。


 庭師に裏切られたと動揺すれば僥倖。怒りに任せ、感情的に否定すればボロも出やすい。どちらにせよ、グランにとって有利に進めることができる。


 ところがグランの思惑に反し、ディアナは映像を見ても特に動じることなく「確かに」と肯定した。


「あれは私がリックに頼んだもので間違いありません。

 ケレメン氏があれを所持していることは以前から知っていました。どうしても欲しかったので、形だけでもと許可を得て模造品を作らせていたのです。

 つい先日誤って壊してしまいまして、今日リックにお願いしました。それがどうかいたしましたか?」

「そのような妄言を信じるとでも?」


 揺さぶりをかけるため、敢えて冷たい声音で問い掛ける。

 普通の令嬢であれば動揺するようなところだ。だが、ディアナは恐怖の欠片も見せることなく、強気な光を浮かべた瞳でグランを見返した。


「オルフォード卿こそ、あれが競売にかけられた本物の短剣であると、証明できるのですか? 

 競売は恙(つつが)なく行われました。短剣を落札した人物も覚えています。

 その方に確認を取ってください。本物をお持ちのはずです」


 なるほど。見た目よりはやるようだ。淀みなく答えるディアナにグランは少しだけ彼女の評価を変える。


「つまりそなたはこの短剣は模造品で、本物は正当な落札者が所持している。よって窃盗ではない。——そう言いたいわけですな」

「話が早くて助かりますわ」


 にっこりと微笑むディアナに「いいでしょう」とグランはいったん矛を収める。まだ前哨戦だ。ここで落ちれば早かったが、食い下がるのであれば仕方ない。

 グランは余裕の笑みは崩さないまま、もう一度水晶球を叩いた。


「ひとまずその話を受け入れておくことにいたしましょう。もっとも、すぐに撤回し罪を認めたくなると思いますがな」


 映像が変わる。魔力のノイズが走り、次第にどこかの地下道を映し出した。高所から見下ろしたような視点の中、呆然と座り込むディアナの姿がくっきりと映っている。

 それを見たディアナは静かに目を見開いた。


「これはギルド内の隠し通路に配置していたゴーレム視点の映像だ。

 何故ゴーレムを配置していたかは機密事項で話せないし、話す必要もない。

 問題はここにそなたと、もう一人映っていることだ」


 映像が動く。荒く乱れる中漆黒の姿が映し出される。

 大剣を指先一つで止める不敵な笑みを浮かべた男。月のような瞳が愉悦に歪んだ瞬間、矛先を変えた大剣がゴーレムにまっすぐ向かう。

 大きな揺れと今までで一番激しく映像が乱れ、そして。

 ぷつりと映像は終わりを告げた。




 

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