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悪魔に対する召喚術~その悪魔、返品不可につき。しょうがないのでとことん利用してやります~【10/9よりS2連載中!】  作者: 詩夏未帆
第三章:競売編 悪魔との競演

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第28話:紛れ込んだ魔術師

 



 とうとう短剣のガラスケースの前に来た。逸る鼓動を必死に鎮めながら、ディアナはケースの中の短剣を見下ろす。


 その見た目は論文の挿絵にあった通りのものだった。優雅な曲線模様が柄を飾り、柄の部分には薄く水色に色づく石がはめ込まれている。

 その装飾は優美で、曇り一つない刀身は光り輝いていた。何百年も昔に作られた代物だとはとても思えない。


「——どう? いける?」


 メイドに聞かれないくらいの大きさでそう呟く。答えるように、イヤリングが小さく揺れた。

 その反応に満足し、ディアナは次のケースへと向かう。立ち止まった時間は他のケースと同じくらい。まず怪しまれることはないだろう。

 その後も同じだけの時間をかけて、ディアナは室内を見て回った。もう目的は果たしたので、戻りは幾分か気が楽だ。


「あら?」


 最後のほうに置かれたガラスケースの前で、ディアナは思わず足を止める。

 その中に収められていたのは小さな鉱石だった。縦に細長い菱形をしたそれは、宝石としては随分荒いカッティングだ。

 だが石の内部が仄かに光っている点から、ただの鉱石ではないことが窺い知れた。


「これ、もしかして魔石の欠片?」


 初めて見る代物にディアナは目を丸くする。

 人は皆魔力を持っている。魔術を扱えるだけの魔力量を持つことは稀だが、魔道具を扱う程度ならば平民だろうと必ずある。

 だからローズベルト商会も、魔力を使用した魔道具を開発することが少なくない。


 しかし個人使用程度ならば問題なくとも、企業単位や広い地域一帯で魔道具を使用しようとすれば、魔力不足は大きな問題だった。

 そこで商会が行ったのが魔石の研究だ。かつて古代魔術文明では盛んに使われていたという、魔力を宿すことができる特別な鉱石。


 一般的に魔力は保存するということができず、物に込めても少しずつ減少してしまうものだった。それを克服したのが魔石だ。

 今ではその現物はほぼ見られず、古代魔術文明時代に人が採掘できる範囲の魔石は採り尽くしてしまったのだろう、というのが通説になっている。


 当時使用していた魔石もほとんどが国管理になっていたり、歴史の中で失われてしまったりしたらしい。ローズベルト商会は、その魔石を人工的に再現できないかと考えたのだ。


 結果としてはその研究は失敗に終わってしまった。というより、採算が取れないと結論付けられてしまった。

 そんな夢のようなアイテムを研究するよりも、魔力消費を抑えた魔道具を開発するほうがはるかに効率的だと判断されてしまったらしい。残念でならない。


 というわけで、一度はローズベルト商会が追い求めていた魔石の欠片が実際に目の前にあると気付き、ディアナはつい興味を引かれた。


「これ、お父様が落札してくれないかしら」


 魔石研究が再開される見通しはないが、いつかのために持っておくのは無駄ではない気がする。

 

「それにしても不思議よね。魔力は生命にしか宿らないと言われているのに、どうしてこの鉱物だけ特別なのかしら。

 貴方なにか知ってる?」

「……」

 

 悪魔だから何か知っているかも、と軽い気持ちで問い掛けるが、返ってきたのは沈黙だけだった。

 無駄なことはペラペラ喋るが、一言も発しないというのは珍しい。

 不思議に思いイヤリングに触れようとしたときだった。出入口に控えていたメイドが「そろそろお時間です」とディアナへ告げる。


「恐れ入りますがホールへお戻りください」

「そう、ありがとう。とても有意義な時間だったわ。この後の競売がとても楽しみ」


 リヴィウスの反応は気になったが、今は作戦遂行を優先しなければ。メイドに案内されディアナはホールへと戻った。

 そのあとは両親と合流し、当たり障りなく開催時間までを交流に使い、競売が始まるのを待つ。


 幸いにも、その後はミハイに絡まれることはなかった。仕事はきちんとする様子に安堵する。

 誰か知り合いはいないかと周囲を見渡していると、隅にあるソファに座る男性の後姿が目に入った。ディアナが記憶する限り、ずっと移動していないような気がする。

 不審に思い、ディアナはその背を見つめる。


「!!」


 男性が横を向いた瞬間見えたその横顔に、ディアナは覚えがあった。反射的に顔を背け、さりげなく人の陰に身を隠す。

 驚いた。どうしてこんなところに。動揺を押し隠しながら呼吸を整えていると、身体の動きに合わせるよう自然にイヤリングが揺れた。


「どうした?」


 耳元で聞こえるリヴィウスの声に「魔術師がいるわ」と小さく答える。


「保守派の幹部よ。競売になんの用かしら」

「大方さっきの魔石狙いなんじゃないか」


 確かに、今の時代では魔術師であろうとも魔石を所持することは難しい。研究のため魔石を欲しがることもあるだろう。

 幹部本人か、それかグランに命令され使いとしてやってきたのか。わからないが、魔石目的に競売へ足を運んだとしてもおかしくはない。


 だが最悪のタイミングだった。ただでさえ保守派には目をつけられているのだ。不審に思われないよう、一層動きには気を付けなければ。


「競売のお時間となりました。皆さま会場へと移動をお願いいたします」


 身を引き締めていると使用人の声がホールへと響いた。その声を合図に参加者は一際大きな扉を潜り廊下を進んでいく。

 廊下に窓はなく、代わりに多くの絵画が飾られていた。どれもとても芸術的価値の高いものだと一目でわかる。

 

 会場に近づくにつれ、作戦の時もまた近づいてくる。足元からじわじわと満ちてくる緊張感に惑わされないように、ディアナは歩を進めた。

 やがて豪奢な両開きの扉が見え、参加者の前で大きく開け放たれた。視界が広がる。


 まず目に入ったのは照明に照らされた見事な舞台だった。客席よりも一段高く作られた壇上は広く、両側には細かな刺繍の施された暗幕が垂れ下がっている。

 床にはビロードの絨毯が張られ、柔らかな感触が足元から伝わってきた。

 会場全体は間接照明で穏やかに照らされており、柔らかく落ち着いた雰囲気を醸し出している。


 まるで劇場をそのまま持ってきたといっても過言ではない豪華な造りに見惚れてしまう。さすが国内有数の資産家。造りの規模が一味違う。

 使用人に誘導され両親と共に客席へ座る。会場全体が暗くなり、壇上に司会が現れる。


「お待たせいたしました。ではこれより、ケレメン家主催の競売を開始いたします」


 さあ、いよいよだ。唾を飲み込み、ディアナは居住まいを正す。

 競売中に確認しなければならないことは二つ。一つは短剣の落札者。それともう一つは、保守派幹部の動き。


 万が一。本当に万が一だが、もし同じく短剣を狙うようなことがあれば、この後の動きがとても重要になる。

 どうか魔石狙いでありますように。願いを込めて、ディアナは壇上を見つめた。

 木槌の音が、高らかに響き渡った。



 

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