それぞれの精霊祭 俺はギニン
俺は、口の中の異様な感覚で目を覚ました。
誰がやったかは知らないが、口の中に雑巾が押し込まれていた。
「くっそ!」
昔から深酒をすると、ろくな目に合わない。軍の入隊試験がある少し前も、町でアニキに奢ってもらったあと、スリに会って全財産失った。まぁ、金6程度だが。
数年前は、気付いたら牢屋の中にいたこともある。まぁ、酒は怖いって事だ。
俺は食堂の裏手で寝ていた様で、食堂のゴミが背中にしみついてしまっている。海まで行って洗い流すか。まだ辺りは薄暗い。夜明けまでには戻ってこれるだろう。
さすがにこの匂いで、男爵家に入ることは憚られる。こう見えて幼い頃は厳しく躾をされていたんだ。王国の呪いのせいで、最近まで忘れていたが、俺の家は代々キャラバンの護衛を生業としていた。普段はレンジャーとして野外で生活することが多かった。罠を知っていたのも幼いうちに刷り込まれていた事が、呪いに負けずに身についていたんだろう。
キャラバンが王国に到着した後、・・・そこからの記憶があいまいになっている。
アニキに拾われて以来、俺の家族はアニキだけだ。頼もしく頼れる存在。ずっとついていきます!アニキ!
過去の事を思い出しながら歩いていると、浜辺に出た。
海の臭いが懐かしい。キャラバンで移動していたときも、よく海沿いに移動したものだ。
俺は、海に飛び込み、全身の臭いを洗い流す。乾季に入りたての為か、水がまだ冷たい。
海から上がり、手早く焚火を作り服を乾かす。
「この場合はさ、火で乾かすより、軽く焼いた石を使うと焦げる心配がないんだぜ。」
このセリフはだれが言ったのだろうか。もう覚えていないが、学んだ通りに服を乾かしていく。
「さ、戻るか。」
山間から日が昇ってきた。少し遅くなったが、今日の仕事には間に合うさ。
ん。少し、服が潮の香りがきついか・・・。ゴミの臭いよりはましだな。男爵家で服を借りよう。
「君がギニン君だね!今日はよろしく!」
「どうも。」
やたら明るい奴が話しかけてきた。ちょっと、距離感が近くないか?こういう奴は苦手だ。
「ギニン君、今日は精霊祭の初日だから、特に巡回が大切なんだ!変なところがあったら、すぐに報告してくれ!自分だけで解決しようなんて思うなよ?」
「あぁ。」
俺が、始めて会う人に、何かできるわけないだろう!判れよ!こんなひょろっとした男が、喧嘩なんか止められると思うか?逃げるさ!!
「さて、じゃあ一緒に廻ろうか。」
「一緒?」
「あぁ、色々教えてあげるよ!」
最悪だ!こんな暑苦しい奴と一緒か。今日だけだよな?
「さぁ行こう!」
やたら明るい奴は元気よく歩き出した。俺は別に、率先して輪を乱す様な事はしたくない。したくないんだが・・・やだな・・・。
町を巡回していると、賑やかな出店があり、観客が沸き立っていた。
「すげー!さすが騎士団様!!既に8人抜き!!」
「おおぉぉ!!!」
騎士団まで来ているのか。何をしているかは分からないが、能天気にバカ騒ぎしやがって。騒ぎは起こすなよ?
「ギニン君、ああいうところはトラブルが起きやすいから、重点的に回るといいよ。」
「そうだな。」
暫く進むと、いい匂いがしてきた。食堂か・・・。
「ギニン君、昼をだいぶ過ぎてしまったが、飯でも食っていくか。なんと!期間中は男爵様の奢りだそうだ!酒以外なら、なんでも頼めばいいんだぞ!」
「知っている。酒は・・・当分飲みたくない。」
俺と陽気な男・・・名前聞いてなかった。とりあえず近場の開いている席に座った。
昼時はかなり過ぎてはいるが、ほぼ満席だ。結構な賑わいだな。
「にいちゃん、こっち!」「はい!少々お待ちください!!」
ウエイターが縦横無尽に走り回っている。あれが接客のプロか?ちょっと雑だな。新人か・・・。
俺と陽気な男は、遅い昼食を食べた後、ゆっくりと町の中を見て回った。
「平和な町だな。」
「そうだろ?男爵様のお陰だ。俺が子供の頃のこの町は、特産物も何もない辺鄙な漁師町だった。それが、男爵様が領主になられてから、あっという間に色々な事が変わった。最初の内は、反対する者も多かったが、今ではみんな、男爵様のファンなんだ。あのお方の周りの方々もすごい方ばかりで、町の守りもほんの数人で行われているんだ。すごいだけじゃない、人を思いやれる人が上に立つことで、多くの人が救われるんだ。・・・・ほんと、いい町だよ。」
陽気な男が、熱く語る男に変わった。・・・うざい。




