晩飯までの時間
俺は食堂に飲み物を貰いに行って、訓練所の入り口に置いた後、一人で街を散策している。
食堂は本日より無料開放しているらしく、お代はすべて男爵持ちらしい。太っ腹な武器マニアだね。
精霊祭の準備も見て回りたいけど、精霊祭が何なのかがいまいち分からない。これは聞き込みが必要か?
「すみませんお姉さん。明日から精霊祭って聞いたんですが、何が行われるんですか?」
「まんまよ。精霊さんをお祭りして、みんなで飲んで騒いで、あぁ、精霊さんも一緒にね。そんで、みんなで平和に暮らしましょう、って約束しておわるのよ。雑でしょ?」
「それって、宝珠を奪われた事に関係があるんですか?」
「なにそれ、知らないわね。それよりあんた、この香水買ってかない?これで女の子も、い・ち・こ・ろ・よ!」
「へぇ~、す、すごいですね~。金80もするんですね~。他も見てから決めますね。」
「戻ってくるのよ~。」
「はぁ。」(無理無理!買えないし!!)
町の人に話を聞くが、抽象的な内容の話が殆どで、詳しい内容を知る人は少なそうだ。
そういえば、食堂の隣は学院だったか。あそこで軽く聞いてみようか。
露店で食べ物や飲み物を買わされつつ、学院の入り口をくぐってみた。
「はい、何の御用でしょうか?」
「ちょっと聞きたいことが有りまして・・。」
学院の内部は静まり返っており、受付のお嬢さん以外は、人影が見えない。場違いなとこに来てしまったか。まぁ、一旦聞いてみよう。
「精霊祭についてですね。」
「はい、ちょっと興味がありまして。」
「では、向かって右側の扉より図書室に入れますので、ご自由にどうぞ。学院の図書室は、一般市民にも開放されております。」
「あ、自分で調べろ、的な?」
「ご自由にお調べください。」
「あ、ども。」
あまり表情を変えない受付嬢にお辞儀をして、右側の扉に向かう。知っている事だけでも教えてほしかったな~。と思えないではないが、情報一つで金を要求する商人よりは、有難い存在なのだろう。
右側の扉を開けると、紙とインクの独特な匂いが漂ってくる。
「えーっと。精霊に関する本は・・・。」
うっ、思わずうなってしまう程の大量の本が俺を出迎えた。
ここは、俺みたいな奴が一人で来るところではない、と思う。よく見たらほんの背表紙には古代語表記のものや、見たことのない文字の物まで並べられている。
「これは、ダメな感じだな。」
一応、本棚の森に分け入り、背表紙を閲覧して回るも、読み取れる文字は僅かしかない。それも「初めての○○、魔術基礎、古代語入門等など、初心者感溢れる本しか読むことはでき無そうだ。
俺は諦めて森から抜け出すことを決意(断念)した。
「ちょっとあなた。見ない顔ね。」
本に背を向けた直後に背後から声を掛けられた。
「あたしを見て逃げるとは、何かやましい事でもあるのかしら?」
「え?いえ、そうではなく、あまりに難しい本ばかりなので、諦めて帰ろうかと・・・。」
「あら、そうなの。早とちりだったわね。ごめんなさい?変な声を掛けたお詫びに、何か調べたい事について、あたしが知っていたら教えてあげるわ、どぉ?」
それは有難い!何というタイミングで声を掛けてくれたのだろうか。しかし、あまり年を取っている様には見えないので、ここの学生さんだろうか?赤いワンピース風のシャツに黒いマントを羽織っている。冒険者が使っているような、厚手の皮のマントではなく、金糸で装飾された高そうなマントだ。
まぁ、学生さんなら、ある程度の知識はあるだろう。
「それは、願ってもない事です!私は今日ここに来たばかりの物で、アルバートと申します。明日から行われる精霊祭について興味を持ったので、誰かに聞いてみようと思ったのですが、ここの受付さんにここを紹介されまして。恥ずかしながら古代語は読めませんので、途方に暮れていた所です。」
「そう、それは大変でしたね。でも、あなた、とても良いタイミングであたしの前に現れましたね。精霊祭の事に関しては、ちょっとばかり詳しいですわよ?あ、そうそう、自己紹介してくれたのに、あたしったら。改めまして、私はハンナと言います。気軽にハンナさんって呼んでくださいね。」
ハンナさん?どこかで聞いたような名前だが。でも、精霊祭に詳しいのであれば、ぜひ聞いてみたいものだ。ハンナさんに案内されるがままに、奥のテーブルに向かい合って座ることになった。
「では、まず、この町の成り立ちから話をするわね。この町は、30年ほど前は名もない小さな漁村だったの。ある時、デュアルという冒険者が様々な功績を立て、男爵になったのね。それでこの町を領地として授かったわけ。それでね・・・・・・・・・・・・・。」
そこから夕暮れまで、30年分の話が一方的に続いた。




