進む事も退く事も出来ず
「なんだ・・。お前は、ただ、見ているだけか?」
男の凄まじい気迫が肌に痛い。鎧の騎士に感じた強さとは違う、数多の強敵を屠ってきた、深みのある強さと言えばいいのだろうか。俺の頭の中では恐怖と、憧れが等量で存在している。
「あんた、何者だ・・。」
「俺か?何者だと思う?」
「盗賊の親玉・・なんかじゃない・・と思う。もっと・・・。もっと大きな何かを感じる。」
「そうか・・・。面白いことを言うな・・・。では特別に、お前には奥義を披露してやろうか・・・。」
そう言うと、男はマントを外し、左手に大振りのバスタードソードを携え、右手を真横に伸ばした。
魔術?と一瞬思ったが、どうやら違う様だ。右側に鎧の騎士が近寄ってきた。
「ローフル、ソードフォーム」
男が力強い言葉を発すると、鎧の騎士が男の手を握り、光を放ちだした。
眩しいほどではないが、薄暗い洞窟の中では十分に明るい。
鎧の騎士は光と共に形を変え、一瞬の後に一振りのバスタードソードへと姿を変えていた。
バスタードソードは、片手でも両手でも扱える剣ではあるが、片手に一振りずつ、二本のバスタードソードを振るう膂力の有る人間は見たことが無い。
「久しぶりだが・・・。どうだろうか・・・。」
男は二本のバスタードソードを構え、素振りを始めた。素振りは次第に早さを増し、ソードダンスの様な、全身を使った動きへと変わる。その切っ先が次第に迫ってきた。
その剣技の凄まじさ、美しさに思わず見とれてしまう。
「動くなよ?」
既に剣筋を目で追う事は出来ていない。見えるのは男の顔と奥に落ちた松明の火に、赤く輝く剣閃のみ。
驚くことに、これだけ素早く激しい動きをしているというのに、頭の位置や目の位置はほとんど変わっていないのだ。
男の凄まじい気迫が肌に痛い。鎧の騎士に感じた強さとは違う、数多の強敵を屠ってきた、深みのある強さと言えばいいのだろうか。俺の頭の中では恐怖と、憧れが等量で存在している。
「よし!準備運動終了!」
「!運動?」
「まだまだいけるな・・。どうだ、見えたか?」
「いや、剣先が光って、沢山の光の線が見えただけだ。」
「・・だろ?」
男は少しうれしそうに、足元に落ちたマントを拾うと、右手の剣を地面に突き立てた。
「ローフル、ファイターフォーム」
すると、バスタードソードは輝きだし、次の瞬間には鎧の騎士に変形していた。
「ほら、これをやる。皆に使ってやれ。お前も使えよ?」
男は無造作に革袋を投げてよこした。袋を開けてみると、高級な回復薬が10個ほど入っている。
「それを使ったら、このまま奥に進んでいけ。洞窟を抜けるとすぐに町が見える。そこにお前たちの仲間がいる・・・。早めに探し出せよ?遅すぎるとレイディの鎧を剥いじまうぞ?」
ハハハッ!と笑って大柄な男は、洞窟の奥へと姿を消してしまった。
俺は、男からもらった薬を自分の足に振り掛けてみた。一瞬の痛みはあるものの、傷口がみるみる内に修復されていく。いわゆる魔法薬というものだろう。気のせいかは分からないが、疲れも薄れていくように感じる。
皆も同じように薬を振り掛けると、すぐに起き上がることが出来た。
「この薬、すごいな。」
「いや、あの男の凄さの方が驚きだ。軍の隊長クラスでも勝てないんじゃないか?」
「それに、こんな凄い薬をポンっと渡せる・・・。一体何者なんだ?」
「彼が言うには、このまま奥に進めば、街が見えるそうだ。そこにコーギもいるらしい。」
「!じゃあ、早く行こう!助けなくちゃ。」
「そうだな、早くしないと、コーギの鎧が剥がされるってさ・・。」
「あんのくそ野郎!!コーギに手を出してみろ!ぶっ飛ばすぞ!」
ビルットが先頭に立って洞窟の奥へと進んでいく。まぁ、ぶっ飛ばす前にぶっ飛ばされるだろうし、向かってきた輩に薬をくれるような人だ。コーギも変な事にはならないだろう。




